手間こそアナログの醍醐味
もう一点見逃せないのが、手間や時間をかけたからこそ得られる感動体験やオリジナリティだ。例えば、レコード。クリックひとつでスタートするストリーミングサービスとは異なり、レコード盤をターンテーブルに載せ、針を落とすという手間が発生する。
また、レコードにはA面とB面があるため、途中で裏返すという手間も必要だ。インスタントカメラにいたっては、撮影後はお店で現像するという手間が発生するうえに、現像するまで何が写っているかわからない、おまけにスマホ撮影のように修正もきかないし撮れる枚数も限られている。
どれも、デジタルネイティブ世代が好む利便性とは真逆をいくプロセスに思えるが、だからこそ、その体験や時間が特別なものとなり、新鮮にうつるのだろう。彼らは、ただ音楽を聴くだけではなく、レコードを聴くという一連の作業そのものを、価値ある体験として面白がっているのだ。
韓国を席巻した「手書き」ブーム
おとなり韓国でもアナログを面白がる現象が生まれている。こちらは、書籍に手書きのイラストや文字を添え、自分だけのオリジナリティあふれる1冊にするというもの。
グラフィティ的なおしゃれさに加え、読み返すたびに、そのとき感じた自分の気持ちがダイレクトに蘇るという、まるで日記のような使い方が韓国の若者の心を掴んだ。
きっかけは、韓国の人気ヒッピホップグループEPIK HIGHのリーダー・TABLOの言葉をまとめた書籍『BLONOTE』だった。
彼の激動の半生を垣間見せ、優しくも文学的な内容が人気を読んだ本だったが、1ページにつき1文というデザイン構成もあいまって、いつしか余白部分に思い思いの言葉やイラストを添えるブロノート活用法=ブロノートアートなるものが、この本のヒットとともにブームを巻き起こした。
同書内にも、BIGBANGのG-DRAGONや女優のコン・ヒョジンといった日本でも人気の面々が直筆の詩やイラストを寄せているほか、インスタグラムで♯blonote_artと検索すれば、同じようにブロノートアートを楽しむ読者の投稿を見つけることができる。
書くというアナログ的な行為は、いまの自分と向き合い、心を整理することにもつながるという。長引くコロナ禍で孤独や閉塞感を感じたり、そうでなくても、日々生きているだけで、焦りや不安、自己嫌悪など、私たちの心は浮き沈みを繰り返す。
そんな時世もあって、手書きで感情をしたためるという行為は、気軽に発信できるSNSとは違った、アナログならではの価値ある体験となっているのだろう。