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借金大国の通貨(アメリカ・ドル)が世界の基軸通貨であり続ける理由

大村大次郎(元国税調査官)

2022年03月15日 公開

ウクライナ侵略による経済制裁でロシアの銀行が国際決済ネットワークから排除され、ロシア通貨ルーブルも大暴落。ロシア国債はデフォルトの危機に直面している。

しかし、ロシアに圧力を強めるアメリカも実は史上最大の借金大国で30年以上、国際収支は赤字なのだ。今回は、世界一の借金大国であるアメリカのドルが、基軸通貨であり続ける理由を通貨や経済の歴史を研究する元国税調査官の大村大次郎氏が解説する。

※本稿は大村大次郎著『お金で読み解く世界のニュース』より一部抜粋・編集したものです。

 

アメリカの軍事力がドルの信用を裏付ける

アメリカが、ドルと金の兌換をやめても、ドルが基軸通貨の地位を維持し続けた理由の一つとして、アメリカの軍事力も挙げられる。
アメリカは、第二次世界大戦後、世界中の紛争に介入し軍事力を見せつけてきた。

経済というものは、戦争や紛争に敏感である。ちょっとした紛争が起きれば、すぐに物流や物価が大きな影響を受ける。

また戦争に負けたり、戦争で多大な被害を受けると、その国の経済は大きな打撃を受ける。その国だけではなく、その国と関係がある国、貿易をしている国も大きな影響を受けることになる。

だから必然的に戦争に強い国の通貨は、それだけ信用されやすいということになる。

もし、世界が平和であれば、国際経済において軍事力というのはあまり評価されないかもしれない。しかし、これまで世界は、いつの時代でも紛争が絶えることがなかった。だから、戦争に強い国の通貨は、いつの時代でも信用されやすかったのである。

第二次世界大戦後、日本は一度も戦争をしていないし、自衛隊が紛争地域で軍事行動を起こしたこともない。だから、世界は平和だったような印象を抱きがちだが、第二次世界大戦後、日本のように平和に暮らしてきた国は、まれなのである。

第二次世界大戦後から現在まで、一度も戦争に参加しなかった国というのは、国連加盟国の中で8カ国しかない。アイスランド、フィンランド、スイス、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ブータンそして日本である(定義によってはジャマイカ、オーストリアが入る)。これ以外の国は、なんらかの戦争に参加しているのである。

つまり戦争がこれほど多いことが、アメリカ・ドルが世界的に信用されてきた要因の一つなのである。

逆に言えば、アメリカ・ドルが信用され続けていくためには、世界は平和であってはならないのだ。

 

金本位制の時代ならばアメリカはとっくに破産している

アメリカ・ドルが、金と兌換しなくてよくなったため、アメリカの輸入は際限がなくなった。今までは輸入超過(貿易赤字)になれば、その分の金が流出してしまっていた。だから、金の保有量をにらみつつ、輸入を制限する必要があったのだ。

しかしニクソン・ショック以降は、輸入超過が続いても、輸入代金としてドルを渡せばいいだけである。そのドルは、金と兌換しなくていいので、アメリカの金は一向に減らない。

アメリカにとっては、輸入を制限するためのリミッターがはずれたようなものである。

アメリカ政府としては、むやみやたらに輸入が増えることは歓迎していなかった。輸入超過があまりに大きくなれば、ドルの信用力が低下するかもしれない。そうなると、それ以上の輸入ができなくなる。それを懸念し、輸入超過に対しては一応目を光らせていた。

しかし、いくら輸入超過が続いても、アメリカ・ドルの信用が落ちる気配がない。ドルに代わる有力な通貨は出てこないし、世界でたびたび紛争が起きるので、その都度、戦争に強いアメリカの通貨は、信用を増すのである。

そのため、アメリカは、貿易赤字を累積することになった。

現在、アメリカの対外純債務は14兆ドルもある。もしこの14兆ドルを、金で支払おうとした場合、アメリカの所有する金は完全に枯渇してしまう。

というより、アメリカの所有している金で、14兆ドル(約1500兆円)を清算しようとしても、焼け石に水程度の返済額にしかならないのである。現在アメリカが所有している金は8000トン前後であり、金相場から見れば56兆円程度にしかならない。3.7%程度しか払えない計算になるのだ。

このアメリカの対外純債務14兆ドルというのは、ドルが金と兌換していないからこそできた借金なのである。金本位制の時代ならば、アメリカはとっくに破産している状態なのだ。

そして、アメリカの破産を防いでいるのは、「ドルが世界の基軸通貨である」ということだけなのである。

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