マイナス思考に陥りやすい人が、幼少期に鍛えられた「残念な視点」
2025年04月14日 公開

人には欠点にばかり目が向いてしまう特性があります。行動科学専門家の永谷研一さんは、その特性は幼少期の経験で強化されると語ります。書籍『1日5分 書けば明日が変わる できたことノート』より解説します。
※本稿は、永谷研一著『1日5分 書けば明日が変わる できたことノート』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
欠けている部分に目がいくのは人間の習性
上に2つの丸があります。最初にあなたの目がいくのは、どこでしょうか? 少し考えてみてください。
たいていの場合、右の丸の「欠けた部分」に目がいくはずです(左の丸に目がいって「最高の真ん丸だ!」と思われた方は、かなり珍しい方です)。
みなさん、どうしても「足りない部分」「欠けた部分」が気になってしまいます。これは人間の特性です。脳科学的な視点で見ても、脳の「視覚野」と呼ばれる部分の情報処理によって、人間は「欠けた部分を補おうとする」ので、自然に欠けた部分に注目するようになります。
こうした人間の習性が現れるのは、この丸を見るときだけではありません。残念ながら、他人に対しても「欠けたところ」、つまり「ダメなところ」に目がいってしまいます。
心理学の研究では、人間には、「観察者バイアス」と呼ばれる、思い込みで相手を見てしまう特性があることがわかっています。つまり、相手の悪い部分ばかり気になるのは無理もないこと。相手に対して期待するぶんだけ、「欠点」が気になってしまい、いい面には気づきにくいのです。
たとえば、やることがゆっくりしている人のことを、私たちはたいてい「あいつはノロマだなあ」と思ってしまいます。「あの人は、やることが丁寧だなあ」とはならない。これも「いいところ」ではなく、「欠けたところ」にばかり目がいっている証拠です。
問題なのは、こうした他人への見方だけではありません。実は私たちは、自分自身に対しても同じ見方をしてしまっているのです。いいところではなく、自分の足りないところ、欠けているところばかりに目がいく。悪いところばかりが気になってしまう。
背が低いから、頭が悪いから、運がないから......。でも、本当にそうでしょうか。そんなに自分は欠けたところだらけですか?
子どものころから鍛えられた「残念な視点」
ダメな部分に目がいってしまう特性を持っている私たちですが、その特性が「訓練」され、「強化」されるのは、小学校に入学したころからです。
お子さんがいない方も、仮に自分がお父さん、お母さんになったと想像してみてください。
小学1年生のお子さんが、90点の漢字テストを持って帰ってきました。そのときに、みなさんはどんな言葉をかけますか?
「がんばったね。もうちょっとで100点だったね」
ほとんどの方がこのように声をかけるはずです。この声かけの、どこがよくないかおわかりでしょうか? 少し考えてみてください。
このような声かけの問題点は、「もうちょっとで」という言葉に表れているように、注目しているのが「取れなかった10点の部分」だからです。よかった90%に目を向けているのではなく、ダメだったほんの10%に注目しているのです。
テストが30点だった場合はなおさらです。「もっとがんばらないと! 先生の話、聞いているの?」となってしまう。子どものことが心配なぶん、「すごいね。30点も取れたね」という発想にはなりにくいのです。
幼稚園や保育園では、基本的に何をやっても「マル」だったはずです。「正しい泥だんごのつくり方」など習いませんし、「あなたの泥だんごは60点」と言われることもありません。歌が歌えるようになった、太鼓ができるようになった、登り棒に登れるようになった......。すべて「マル」ですから、「学び」は楽しかったはずです。
しかし、小学生になると様子が違ってきます。テストの解答用紙にたくさん「マル」がついていたので、ワクワクして家に帰って来ると、「こんなところを間違えて!」と言われたり、「お兄ちゃんはいつも100 点だった」と兄弟や友達と比較されたりし始める.......。本来は楽しかったはずの学びが、学校に入って点数の序列の中でマイナス面を指摘されるようになると、受け身になってしまうのです。
こんなことが続くと、私たちは無意識のうちに、傷つかないように自分を守ろうとします。「それは習ってない」と言い出したり、ちょっと計算を間違えたくらいで「私は算数が苦手だから」と言うようになったりするのです。
これらは、自分が傷つかないようにするための言葉なのですが、切ないですよね。
いつもマイナス面を見るようになっていく
このように言われて育つと、誰でもついマイナス面ばかりに着目するようになります。100点を取らない限り、毎回ダメな部分を指摘されるのですから、当然です。
もちろんこれは、子どものテストだけではありません。みなさんの日常生活や仕事においても、「できないこと」ばかりを注意されることがないでしょうか。
家では「あなたはいつも部屋が汚いわね。なんで掃除しないの?」と言われたり、会社では、「また発注ミスをしたんだって? 確認を怠っただろ。今後は気をつけるように」と言われたり......。
人はできなかったことや失敗したことばかりを指摘され続けると、いつも「自分のダメな部分」に注目するようになってしまいます。
要するに、私たちはマイナス思考になりやすい環境に置かれてきた側面があるということ。私たちはみんな、「欠けているところを見ることを訓練されてきた、欠点探しのスペシャリスト」なのです。
その逆に、生徒の「やる気」を伸ばすことで有名なある先生は、たとえ0点であっても、できたところをほめるそうです。でも、0点なのにどうやって? たとえば消しゴムで消した部分があれば「何度も計算してがんばったね」と、欠点ではなく、「できたこと」を見つけようとすれば、ほめる部分は見つかると言うのです。