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「アニマルライツ」「ビーガン」...なぜ“動物の権利”を訴える活動家に女性が多いのか?

佐々木正明(ジャーナリスト・大和大学教授)

2022年06月01日 公開 2024年12月16日 更新

動物の福祉(アニマルウェルフェア)や動物の権利(アニマルライツ)、さらにはビーガニズムの重要性を訴え普及させようとする、生き物をめぐる新たな運動が日本と世界に広がりつつあるという。

「社会現象を起こすインフルエンサーたちも活発に啓発しており、「おうち時間」が増えたコロナ禍は、人間と動物との関係を考える1つの契機になった可能性がある。」こう話すのは、ジャーナリストであり大和大学教授でもある佐々木正明氏。

著書『「動物の権利」運動の正体』の中から、「動物の権利」を訴える活動家たちの思想背景や行動原理を探る一節を紹介する。

※本稿は、佐々木正明著『「動物の権利」運動の正体』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

 

なぜ、活動家には女性リーダーが多いのか?

動物の福祉(アニマルウェルフェア)や動物の権利(アニマルライツ)、さらにはビーガニズムの重要性を訴え、普及させようと世界各国に設立された団体の多くが、女性がリーダーを務めている。

この分野の先駆的な調査を行っている米ミネソタ・ダルース大学のエミリー・ガーダー教授の数々の研究論文や著作物でも、活動家の数は圧倒的に女性の方が多い、との分析がある。

2006年に著した「動物の権利におけるジェンダー・クエスチョン:なぜ女性が大多数なのか?」のレポートにもこんなくだりがある。

ガーダーが引用した先行研究によれば、「動物の権利運動の参加者は68〜80%が女性」(Jasper and Poulsen 1995, Lowe and Ginsberg 2002)だという。また、参加者は「年齢や政治的見解、教育レベルに関係なく、女性の方が男性よりも動物の擁護者の可能性が高い」(Kruse 1999)という。

そうした上で、ガーダーは動物の権利運動において女性が多いことの仮説を複数、挙げている。

(1)ジェンダー化した経済構造「屋外で働く女性が少なく、(女性の方が)動物の諸問題に多くのエネルギーを費やすことができる」

(2)リクルートネットワーク「女性は、動物の福祉の組織から動物の権利運動にリクルートされている」

(3)広くシェアされている不平等さへの共感「女性は動物が苦しんでいる状態を(人間が受ける)虐待や抑圧と関連付けている」

(4)社会的学習による説明「感情的な表現と思いやりは、男性よりも女性の方が受け入れやすい」

(5)生物学的理論「女性は生まれつき子育てをする人であり、自らの本能に従っている」

 

植物ベースの食事がCO2の削減に…

2021年4月、ジョー・バイデン大統領主催の気候サミットが開催され、世界の主要国がここ30〜40年間の期間で、カーボンニュートラルを目指すことが表明された。

地球環境保護などの目的で、ビーガン(vegan:完全菜食)の生活に入る人たちが増えたことはこのカーボン革命と無関係ではないだろう。

社会現象を起こすインフルエンサーたちも活発に啓発しており、「おうち時間」が増えたコロナ禍は、人間と動物との関係を考える1つの契機になった可能性がある。

気候変動の危機を訴えるリーダーとなったグレタ・トゥーンベリは2021年春、畜産動物の保護を訴えるアメリカの団体「Mercy for Animals」(動物たちのための慈悲)と一緒にPR動画を作り、「気候危機、生態系の危機、健康の危機」が互いに連動している問題だ、と言い出した。

PR動画の中で、トゥーンベリはこう説明した(以下、拙訳)。

「Covid‐19、SARS、MERS……新しい病気の約75%は他の動物から来ています。森林の伐採や(動物)生息地の破壊は、ある動物から別の動物へ、そして私たちへ病気が波及する完璧な条件を作り出しています。次のパンデミックははるかにひどくなるかもしれません」

「世界の農地の83%は畜産動物の餌の生産に使われています。しかし(人間が)畜産物から得るカロリーは18%に過ぎません。食べるために動物を育て、その動物を養うため飼料の栽培に土地を開墾しています。これを続ければ土地と食糧がなくなります」

「もしも私たちが今のやり方で食物を作り続けたら、ほとんどの野生動物と植物の生息地も破壊し、無数の種を絶滅に追いやります」

「農業とその土地利用は(すべての温室効果ガス)排出量の約4分の1にも及びます。これは非常に大きい。私たちが植物ベースの食事に移行すれば、毎年最大80億トンものCO2を削減できます」

「私たちは毎年600億頭以上の動物を殺しています。魚を除いています。数があまりにも大きく、彼らの命は重量だけで測られています。彼らの考えや気持ちはどうなんでしょうか? 動物によっては将来を計画し、何十年も続く友情を築きます。

彼らは遊び、助け合います。彼らは私たちが『共感』と呼ぶものを示します。でも私たちが飼育する動物の70%は工場内で生きています。彼らの一生は短くて酷いものです。このことを知ると心が痛みます」

こうして、トゥーンベリはパンデミックと気候変動問題、そして畜産業の問題と動物の命を守ることを1つの鎖にして結び、「私たちは、土地の耕作や家畜を飼育する方法、そして、何を食べていくのか、大自然をどのように保護していくのかをチェンジできるのです」と、動物たちに頼る社会システムの変革を要求したのである。

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「野生のままに」広がりをみせる動物の権利運動

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