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名作『グラン・ブルー』の原点? リュック・ベッソンが息を呑んだ「伝説のイルカ人間」

リュック・ベッソン(著)、大林薫(監訳)

2022年06月22日 公開 2024年12月16日 更新

フランスとハリウッドを代表するヒットメーカー、リュック・ベッソン。彼は映画監督であると同時に、大人になってもなお、深海に魅入られたひとりの少年のままだ。

人の心が読めるイルカ、16歳での深海ダイビング初体験、素潜り100m記録を持つ伝説のダイバーとの出会い――。名匠ベッソンの原点であり、その半生の集大成でもある『グラン・ブルー』(1988)のルーツをたどってみたい。

※本稿は、リュック・ベッソン著『恐るべき子ども リュック・ベッソン「グラン・ブルー」までの物語』(&books/辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

孤独な少年とイルカの絆

青い世界のなかにその姿が現れた。大きな灰色のイルカだ。泰然として、ぼくの周りをゆっくり泳ぎながら、しきりにクリック音を鳴らす。ずっと眺めていたくて、ぼくもイルカの動きに合わせてゆっくりとスピンを始めた。

すると、イルカは何度か斬新な動きを見せた。歓迎のダンスなのかもしれない。不器用ながらも、ぼくが真似てみせると、イルカは動きをやめて、こちらを見た。

ぼくのパフォーマンスを「お粗末だな」とあきれているのか、それとも、「ずいぶん思い切ったことをするね」と感心しているのかはわからない。

いずれにしろ、至近距離まで寄ってきて30分ほどうろうろしてためらったあげく、体を触らせてくれた。その肌は絹のようになめらかで木のようにかたく、まるで200キロ分の筋肉が真空パックされているかに思えた。

ぼくにさすられるのが、かなりお気に召したらしい。何度もそばに来ては、くるりと仰向けになり、お腹もさすってもらおうとする。やがては、背ビレをぼくの手に預け、つかまれと合図してきた。

ぼくは青い世界の底に向かって潜っていくことにした。できるだけ深くまで行ってみようと。だが、そのとたん、イルカはぼくにヒレをつかませて浮上した。ぼくが疲れていることに、ぼくより先に気づいていたのだ。

ぼくが水面から顔を出して休んでいると、イルカがすぐ近くまでやってきた。本当にすぐ目の前まで来てくれたので、ぼくは腕を回してイルカを抱いた。全身が震えてきて、ぼくは泣きじゃくった。

ぼくのことなどほとんど知らず、類縁関係の遠い生物同士なのに、どうしてこのイルカだけがぼくに愛情を注ぐことができるのだろう。ぼくが愛情を必要としているのを感じ取ったのか?この子もぼくと同じように愛情に飢えているのか?やっと少しだけでも愛情を手に入れられて、ぼくは嬉し涙にくれた。

 

光の届かない“青い海”、グラン・ブルーでの神秘的な体験

サント・ステファノで、ぼくははじめて本格的にグラン・ブルーを体験した。ぼくが言うのは広大な海の広がりを意味する大海原(グランド・ブルー)のことではなくて、底がわからないほど深い青一色の世界のことだ。

そこには太陽光は届かない。プランクトンの発するパチパチという音がさらにはっきりと聞こえる。海面に浮かび、波に揺られながら、グラン・ブルーを見下ろす。

グラン・ブルーがこちらを呼んでいる。目が眩み、身を委ねたくなる青の世界。潜ると、たちまち海上の音が消える。風のそよぎも船の音も人の話し声も聞こえてこない。

聞こえるのは、水面に向けて戯れるように上昇する気泡の意外にも大きな音だけだ。さらに降下する。落下ではなく、滑り降りる感じ。重力は消え、体は木の葉のように軽い。水圧が規則的に増加し、光が減少する。

海底は相変わらず見えない。周囲には何もない。ひたすら青いだけだ。それでも、全員が満ち足りていた。まるで、教会のなかにいる巡礼者のような心持ちだった。

ぼくたちは数分間その地点にとどまって、内省し、自分がちっぽけな存在であることを思い知った。次はいよいよ浮上する。浮上するにつれ、だんだんと温かさが感じられるようになってきて、ぼくたちは陶然とした。

そして、最初の減圧停止のポイントまで浮上した時にはほとんど酔ったようになっていた。時には30分以上停止することもあったが、ようやく海面に出ることができたのだった。

ボートに戻ってきた時には、みんな少し無口になっていた。それくらい感動的な体験だったのだ。いや、それどころか、神秘的だったとさえ言える。体験したことのない人に説明するのはすごく難しいのだが。

いつか、誰かがこのグラン・ブルーの世界を映像化してくれたらいいのに。そんなふうに考えたものだった。

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伝説の100mダイバー、ジャック・マイヨール

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