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日本企業で「社員一律平等」が強いられる歴史的背景

髙木一史(サイボウズ人事部)

2022年07月20日 公開 2024年12月16日 更新

 

世にも奇妙な「企業別労働組合」の誕生

敗戦後の1945年10月、アメリカ占領軍は一連の指令のなかで、日本にあるものを結成することを奨励しまし()

それは、労働組合です。労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体で()。 労働者が個別で使用者(経営者)と交渉するよりも、大勢で団結した方がより対等な立場で話し合いができる、というわけです。

労働組合自体は戦前から日本にも存在していましたが、経営者や国家権力からの圧迫があ()、活動が盛んだったとは言えず、その組織率も1931年の7.9%が最高でし()

アメリカは日本を民主化していくうえで、労働運動が公然かつ自由に発展していくことが必要だと考えていました。具体的には「政治的、市民的及び宗教的自由に対する制限除去」を日本政府に指令し、治安維持法や治安警察法など組合活動を抑圧していた法令を廃止させました。

また、当時の首相に要求した「人権確保のための5大改革」のなかにも「労働組合結成の促進」を挙げていまし()。 

以降、労働組合の数は爆発的に増え、1945年9月の時点では2組合、1077人だった組合員数は、1949年6月には3万4648組合、665万5483人となりまし(。推定組織率も、55.8%まで高まったと言います。

ここで日本が特徴的だったのは、その労働組合に入るメンバーの中身でした。

欧米社会の労働組合は、「産業別労働組合」や「職種別労働組合」といって、さまざまな会社を横断して、同じ産業の人、もしくは同じ職種の人が1つの労働組合に入るスタイルが一般的です。

会社を超えて団結することによって給与や待遇アップを実現したり、もし会社をクビになったとしても、組合を通してほかの企業に転職することができる、というシステムが出来上がっていたので()。 

しかし、日本で新しくつくられた労働組合は、その80%以上が「企業別労働組合」でした。つまり、それぞれの企業のなかに労働組合をつくる、という形をとったのです。

さらに特徴的だったのは、ブルーカラーとホワイトカラーという役割(職務)が異なる人たちが同じ労働組合に入っていたことです。これは世界的にも、珍しい現象でした。

戦前から日本で労働運動を展開していた日本労働総同盟(労働組合の全国組織)も、当然、欧米のような企業横断型の労働組合をつくっていくことを目指していたた()、「一般従業員が会社別従業員組合組織の希望を有することは遺憾ながら我等の当面する事実である。我等はこの迷蒙を打破しなければならない」と、企業別労働組合のあり方を批判しましたが、その流れがやむことはありませんでし()。 

なぜ、このような企業別労働組合ができたかには諸説あります。

そもそも日本には、欧州の職種別労働組合のように会社を横断した組織をつくるという伝統がなかったことや、戦中に企業内にできた「産業報国会(戦争協力のための労働団体組織)」の影響が指摘されることもありま()

また、戦争の体験が生んだ運命共同体意識も大きな要因になったとされています。役割の違いに関係なく、戦争を一緒に戦いぬいた仲間として会社のなかにある差別をなくしていきたい、と。

「会社のなかでは、みんな平等にしたい」という想いがそこにはあったと言いま(。 実際、当時の労働組合は経済的な要求だけでなく、通用門を一元化する、職員専用施設を工員にも開放するなど、差別を撤廃し、「会社の平等」を実現することに力を注ぎまし()

1947年に東京大学社会科学研究所が行った労働組合の大規模調査でも、ブルーカラーとホワイトカラーの混合組合をつくった理由として多かった回答は、「職員も工員も共に従業員である」「労働者の本質には職員、労務員の差異は存在しない」といったものでした。

また、同調査をまとめた経済学者の大河内一男は「『混合組合』の理念はそのまま組合としての『身分制撤廃』という平等思想の産物だった」としていま()

 

世界に例を見ない日本のしくみは、「青空の見える労務管理」と呼ばれた

こうして戦前から戦後にかけて形づくられた「会社の平等」は、1950年代に完成を迎えます。

戦後不況のなか多くの大企業で大規模な労使紛争が起こり、一連の大争議を経たあと、経営側と労働組合側は互いに歩み寄り、解雇に慎重であることや定期的な昇給を行うことを合意しました。

それは実質的に、戦前にはホワイトカラーだけにかぎられていた長期雇用と年功賃金、すなわち「終身の保障」をブルーカラーにまで拡大することを意味していまし()

ブルーカラー出身でも、経験を経て能力を認められれば、ホワイトカラーに転換される可能性がある。有能者となれば、そこからさらに抜擢される。昇進スピードの差はあるけれど、どんな役割であったとしても勤続と評価を重ねて基準を満たせば、昇進・昇給ができ()

これらの合意は、「会社の平等」を示すうえで大きなメッセージとなりました。「職務に関係なく、社員であればだれでも一律平等に、長期的に雇用されて階段をのぼっていくことができる」そんなしくみが誕生したのです。

このしくみは当時、階級の天井を打ち壊したという意味を込めて、「青空の見える労務管理」と呼ばれたそうで()

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一律平等こそが、社員の幸せを実現する手段そのもの

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