アジアで初の「同性婚特別法」成立の裏側
オードリーが大臣として加わった政府は、それまでにはなかったさまざまな仕事にとりくみ、新しく実現させてきました。
そのうちのひとつが、2019年に成立した「同性婚特別法」です。台湾は、アジアで初めて、同性の結婚を法律的に認めた国になったのです。
この法律が作られるときにも、Joinが活用されました。そこには賛成の意見と同じくらい反対の意見もたくさん集まりました。オードリーは、IT大臣として、その意見が目に見える形にまとめ、議論を深める役目を果たしました。
そして、同性の結婚をいやがる人を、ある程度納得させる方法を見つけました。
結婚は個人と個人の間のことで、それによって、それぞれの家族が親戚になる必要はないという条文をつけくわえることです。このことで、同性婚が、伝統的な家族のあり方をこわすのではないかという、反対派のおそれをおさえることができました。
「同性婚特別法」は、同性婚を制度化してほしい人と、反対の立場の人たちのあいだに生まれた「おおまかな合意」によって成立したのです。
2020年のマスク・パニックのときにも、台湾政府はおもしろいことをしました。
中央流行疫情指揮センター(CECC)という政府の機関が、新型コロナウィルス感染症対策について、不満や疑問、こうしたらどうかというアイデア、なんでもお寄せくださいと、フリーダイヤルを設置しました。すると、あるときこんな電話が入りました。
「うちの息子が学校に行きたがらなくて困っています。みんなあなたがたが用意したマスクのせいですよ。マスクが全部、ピンクなんて! うちの子は、『ピンクのマスクをつけて学校に行ったら確実にいじめられる』と言って、マスクをつけようとしません」
マスクの色に、男性用、女性用など、あるはずもないのですが、それでもまだまだそういう意識があることも理解できます。
とはいえ、マスク不足の中、白や青のマスクを少年用にわたすという余裕もありません。
しかし、そう答えるよりいい方法を担当者は思いつきました。そして、衛生福利部(日本の厚生労働省にあたる)大臣にこう進言したのです。
「次の会見からは全員、ピンクの医療用マスクをつけてカメラの前に出てくれませんか?」
その後、大臣以下、衛生福利部の人たちは、ピンクのマスクをつけてカメラの前に立ち続けました。おかげで、少年はピンクのマスクをすることに抵抗を感じずにすむようになりました。
マスクをいやがっていた一人の少年、それは、いままでなら無視されたり、軽視されたりしていた人でした。しかし、その声を聞くことで、社会全体の意識を変えることもできる————オードリーはこの出来事を高く評価しています。
台湾政府が目指す「オープンガバメント」とは
開かれた政府とは、どんなものなのか。オードリーはこういっています。
1:政府の資料やデータを開放すること。
2:それに対して、市民に対して、意見はないか、問いかけること。
3:市民の意見に対して、政府が答えること。
4:そのとき、言葉が通じない、障害があるなどの理由で、忘れられ、取り残された人はいないか、探すこと。
これを実現するために、オードリーはいまもすべての活動、すべての発言を完全にオープンにしています。オードリーが参加するすべての会議の内容は、だれもが好きなときにチェックできるのです。