家族、仕事仲間、友人など、あなたの身近な人が発達障害だったとき、どう対応していけばいいのでしょうか? 臨床発達心理士の佐藤恵美さんが、発達障害の特性や付き合うコツを詳しく紹介します。
※本稿は、月刊誌『PHP』2022年12月号掲載記事を転載したものです。
あなたにも関係ある発達障害
「自分は発達障害と関係ない」「身近に発達障害の人はいない」
あなたは、そんなふうに思っていませんか。「障害」という言葉から「自分には関係ない特別な症状」という印象があるかもしれません。
しかし実は、発達障害かどうかの境界は曖昧で、白か黒でわけられないのです。そう、あなたの身近な人も、もしかしたらあなた自身も、けっして発達障害と無縁とはいえないかもしれないのです。
それをあらわしたものが上の図です。発達障害の特性が強いと、乳幼児・学童期に診断を受けて支援につながっている可能性が高いでしょう(図の右側)。
ですが、特性がそれほど強くないと、どこか違和感や生きにくさを抱えつつも、診断や支援はなく、現在に至っていることがあります(図の左側)。
特に、「グレーゾーン」に位置する場合は、発達障害の特性が見え隠れしつつ、家族や職場の人から「できない人だ」と誤解され、自分でも「私はダメな人間だ」と思って過ごしていることも少なくありません(図の中央)。
そもそも、発達の特性は「ある」か「なし」ではなく「スペクトラム」といわれるように「曖昧な境界を持った連続体」であり、だれもがその特性に心あたりがあっても不思議ではないのです。
発達障害について知ることで、自分とまわりを理解し、生きやすくなることにつながります。
発達障害ってそもそもなに?
【特徴】
(1) 生まれつきの脳機能の障害であり、育て方や環境で生じるものではない
(2) 障害特性は悪化したり自然に治ったりせず、基本的には不変
(3) 日常生活や社会生活で、対応を必要とする問題が生じている
「大人になって発達障害になった」という人がいますが、そういうことはありません。そう感じることがあるとすれば、それまでは問題にならなかった障害特性が現在の環境の影響で目立つようになった、と考えられます。
同様に「発達障害が完治する」ということもなく、もし困ることがなくなったとすれば、それもまた、環境とうまく適応して障害特性が目立たなくなったのです。
このように、特性そのものは基本的には変わりませんが、その人を取り巻く環境が特性に影響を与え、問題が生じたり生じなかったりするのです。
発達障害の主な分類
「発達障害」という呼び方がよく使われますが、そういった疾患名があるわけではなく、主に「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」などをふくめた総称です。
ここでは、前者2つを対象として「発達障害」と表現します。障害特性は、両者が混在していることもあります。
(1) 自閉症スペクトラム障害(ASD)
【主な特徴】
・対人関係がうまくいかない
・行動や興味などに独特のこだわりがある
【認知特性のイメージ】
・複数が苦手/ひとつが得意
・曖昧が苦手/はっきりが得意
・あれこれが苦手/じっくりが得意
(2) 注意欠陥多動性障害(ADHD)
【主な特徴】
・注意や集中を継続できない
・落ち着きがなく、待つことができない
【認知特性のイメージ】
・ごちゃごちゃ/頭の中の情報やモノの整理ができない
・あれこれ/目移りする、気が散る、抜けや漏れが多い
・とびつき/よく考えずに行動や発言をする
※考え方の道筋のことを「認知特性」といい、見たり聞いたりする外からの情報を、脳が「記憶」「理解」「処理」「表現」するなどの力です