「朝にバタバタしない方法は?」 禅僧が出した“納得の答え”
2025年05月15日 公開

一日の始まりである「朝」を充実させることは、幸運を手にすることにつながる。曹洞宗徳雄山建功寺住職の枡野俊明さんは、著書『幸運は、必ず朝に訪れる。』の中で、朝の習慣がいかに大切かを教えてくれます。
しかしながら、朝は時間に追われ有意義な過ごし方とは程遠いと悩む人も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、枡野さんが提唱する、慌ただしい朝を変え、充実した時間を生み出すためのヒントを探ります。
※本稿は、枡野俊明著『幸運は、必ず朝に訪れる。』(PHP文庫)の内容を一部抜粋・編集したものです
夜眠る前に、翌朝の準備をやっておく
私が子どもの頃は、寝る前に必ず行う"儀式"がありました。翌日学校に着ていくもの、授業で使う教科書やノート、宿題などをすっかり準備するというのが儀式の内容です。衣類を枕元に置いていた子どもたちも少なくなかったようです。
はじめは母親の「明日の準備をしておきなさい」という指示でしていたわけですが、いつしかそれが習慣になって、いわれなくてもするようになっていたように記憶しています。翌朝の準備は家庭のしつけのひとつでした。
準備を整えておけば、起きてすぐに着替えられますし、忘れものをすることもありません。
まさに「備えあれば憂いなし」です。
さて、みなさんは夜に翌朝の準備をしていますか。朝になってから、着ていくものを選び、仕事に必要なもの、財布や定期、携帯電話などをチェックしている、という人が大半ではないでしょうか。
それで困ったことはなかったか、思い起こしてみてください。
「そういえば、着ていこうとした洋服のボタンが取れかかっていて、そこから、洋服を選び直したなんてことがあったな」
「家を出てしまってから、スマホを忘れたのに気づいて取りに戻ったことがあった。もう少しで会社に遅刻しそうになって焦った、焦った」
そんな"苦い思い出"は誰にでもあるのではないでしょうか。
洋服選びについていえば、たとえばその日の夜にデートの予定があったとして、着ていこうとしたお気に入りに難があったら、ファッションを一から考え直さなければならなくなるかもしれません。
洋服が替わったら、それに合わせたバッグやスカーフ、アクセサリーなども選び直さなければならなくなる、ということにもなりそうです。
いずれにしても、かなりの時間がそのためにとられてしまう。これは準備をしておけば、かからなくて済むムダな時間です。
焦って会社に駆け込んだ場合は、余裕を持って仕事に取り組めないかもしれません。それがミスにつながったり、やるべきことができなかったり、という結果にもなる。一日の滑り出しである朝の焦りは、その後も尾を引くのです。
「小学生じゃあるまいし、いまさら、夜に翌朝の準備だなんて......」
そう思う人もいるでしょう。
しかし、「よい習慣」は、どんな内容であろうと取り入れたらいいのです。
最初は面倒くさいかもしれません。それでもやる。それがよい習慣を身につける唯一の道です。曹洞宗大本山永平寺の貫主だった宮崎奕保禅師(満106歳で御遷化)は、こんなこともおっしゃっています。
「人間はまねをせないかん。学ぶということは、まねをするというところから出ておる。一日まねをしたら、一日のまねや、それですんでしまったら。二日まねして、それでまねせなんだら、それは二日のまね。ところが一生まねしておったら、まねがほんまもんや」
禅師のお墨つきがあるのです。
どうぞ、一所懸命に小学生の「まね」をしてください。
朝動くから一日の動きが軽やかになる
日本には世界に誇る「朝の行事」があります。一体、それはなんだと思いますか。
「ラジオ体操」がそれです。日本ではさまざまな企業の現場で朝のラジオ体操が行われています。
体操をすることによって心も身体も目覚めさせる。そのあとに、朝礼をやっている現場も少なくありません。
それが、日本企業の精度の高い仕事、精緻な仕事に繋がっているといっても過言ではありません。
心身が目覚めれば、動く(仕事に取り組む)態勢が整います。その上で、朝礼を行い、その日一日の仕事の流れ(情報)を全員で共有する。
建設現場などでは、資材を運ぶトラックなどの出入りも激しく、作業にも危険がともないますが、万全の態勢づくりと情報の共有で効率の高さと安全性をしっかり確保しているのです。
この日本が世界に誇る「朝の行事」を、私はみなさんの毎朝に、ぜひ取り入れていただきたいと思います。ラジオ体操でなくても、とにかく身体を動かす。そのことによって、一日の動きが格段に軽やかになります。
止まっている車輪は動き出すまでに大きな力を必要とします。しかし、動き始めてしまえば、あとは自然とスピードも上がり、しっかり轍わだちを刻みながらスムーズに回っていきます。要するに、いつ動き出すかが重要なのです。
寝ぼけまなこをこすりながら、オフィスに入り、そこから動き出したのでは、午前中の一時間、いや、それ以上の時間が仕事に向かう態勢づくりに費やされてしまいます。
一方、朝いち早く動き出しておけば、オフィスに入ったときには、すでに加速がついた状態で仕事に取り組むことができますから、気力も能力もフルスロットルで仕事を片づけることができるのです。
この差は大きいと思いませんか。
たとえば、出勤早々に、仕事相手から電話がかかってくる。
「明日のミーティングに必要なデータは今日送っていただけるんでしたよね?」
「ああ、そうでした。えーっと、これから揃えますから、午後にはお送りできると思います」
これが"寝ぼけまなこ"組です。
対して"フルスロットル組はこうなります。
「はい、もう揃いますから、すぐにメールでお送りします!」
相手の受けとり方は明らかに違うはずです。どちらが信頼を得られるかはいうまでもないでしょう。動きの遅さ、鈍さは信頼感を損ない、その速さ、軽やかさは信頼感を生み出します。
その事実を知ってもなお、「少しでも長く寝ていたいなぁ」という誘惑に負け続けますか。それとも、「早々に動き出す朝」を習慣にすることに着手しますか。
こんな言葉があります。
「習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる」
これは、米国の哲学者で心理学者でもあるウィリアム・ジェームズがいったものですが、習慣、引いては人格の変化は、仕事をはじめとする、ものごと全般に対する向き合い方の変化ももたらすことでしょう。
朝に身体を動かすという習慣は、なにごとに対しても、素速く、軽やかに動く自分をつくるのです。そうした習慣の変化は、最終的に運命をも変える、と著名な哲学者も太鼓判を押してくれています。
戸惑いも、迷いも、無用です。ここは実践しかありませんね。