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彬子女王殿下が、いつもの「本屋パトロール」中に起きた奇跡的な出来事〈特別寄稿〉

彬子女王

2024年05月09日 公開 2024年12月16日 更新

彬子女王殿下が、いつもの「本屋パトロール」中に起きた奇跡的な出来事〈特別寄稿〉

本屋さんが街中からどんどん消えている。そのことに寂しさを感じておられる方も多いことでしょう。本好きにとって、本屋さんはやはり大切な処です。とても楽しい場所で、人生や仕事の支えとなるような良き本とめぐりあう、そんな機会をもたらしてくれる場所でもあります。

「活字を読んでいると、なんだか心が落ち着く」と言われる彬子女王殿下も、「本屋さん通いはやめられない」そうですが、最近のある日、行きつけの本屋さんで奇跡的で素敵な出来事が起きたそうです。

※「PHPオンライン」では、彬子女王殿下のご著書『赤と青のガウン』(PHP文庫)より、計4回の抜粋記事を公開しましたが、大好評でしたので、〈特別寄稿〉を書き下ろしでいただくことになりました。ぜひお楽しみください。

 

「ちょっと時間が空くと本屋パトロールに」

私は本の虫である。子どもの頃から本を読むのが好きだった。ひらがなを覚えたばかりの頃だから、おそらく幼稚園の年長さんか、初等科の1年生くらいだと思うが、どうしても父の書かれた『トモさんのえげれす留学』(1)を読みたいとせがみ、父と女性職員が手分けをして本にふりがなを振ってくださったことがある。

若かりし頃の父の英国冒険譚は、小さな私にはわからないことも多かったけれど、とてもワクワクしたことを今でもよく覚えている。思えば、あれが本の虫の原点であると思う。

物心ついたときから、本を読まない日はなかったような気がする。今でも、周りには研究書、エッセイ、時代小説、漫画など、多種多様な本があるが、移動中、入浴中、寝る前など、毎日何かしら読んでいる。

本だけでなく、活字が好きなのだと思うが、控室で一人残されているときなど、手持ち無沙汰すぎて、ペットボトルのお茶やお菓子の成分表示を読み込んでいたりすることもあるくらい。活字を読んでいると、なんだか心が落ち着くのである。

そんなわけで、手元に読む本が少なくなってくると、急激に不安に襲われる。そうなると必ず本屋さんに行くし、ちょっと時間が空くと本屋パトロールに出かけてしまう。好きな作家さんの新刊が出ているとうれしいし、全く買う予定はなかったのに、気になっていた漫画を衝動的に全巻大人買いしてしまうこともある。

本屋さんに行って、手ぶらで出てきたことは今まで一度もないのではあるまいか。我ながら、とてもいいお客さんだと思っている。

だからこそ、今自分の著書である『赤と青のガウン』が本屋さんに平積みしてあったり、話題書の棚に並んだりしているのを見るのは、この上ない幸せである。

おかげさまで随分たくさんの方たちに読んでいただいているようで、発売当初は友人・知人から「買いに行ったけど、売り切れだった」「最後の1冊を買えた」「ネットで注文したら、2週間待ちっていうメールが来て......」などとよく言われたし、園遊会や仕事先などでお目にかかる方々にも、「読みました!」とか「おもしろかったです」などと声をかけていただく機会が増え、本当にありがたいことだと思っている。

大型書店さんなどでも、文庫本のコーナーだけでなく、数か所で展開してくださっているところが多く、パトロールに出かけると、ついうれしくてにまにましてしまう。

ある本屋さんのその週の売上ランキングが東野圭吾さんの小説上下巻(2)に次いで3位、ライトノベルの『薬屋のひとりごと〈15〉』(3)に勝っていたのを発見したときは、私に「薬屋のひとりごとおもしろいよ」とおすすめしてくれた友人の息子に、興奮して証拠写真と共に報告してしまった。「彬子様、かっこいい~!!」と褒めてくれた。

 

レジ待ちの列に並んでいたときに起きた奇跡的な出来事

赤と青のガウン

発売以来、本屋さんに行くたびに私は側衛(そくえい)さんに言っていた。「手に取ってくれてる人とか、眺めてくれてる人とかいればいいのになぁ」と。「テレビ番組みたいに、どこかでモニタリングしてて、手に取った!っていう瞬間に出ていくようなことをしない限り無理でしょう」と言われた。

書店の方にも、出版社の方にも、「有名作家さんでも、サイン会などでもない限り、そんな話はほとんど聞いたことがない」と言われた。それはそうだろう。そんな奇跡はなかなか起こらない。そう思っていたある日のことである。

用事と用事の合間に隙間があったので、東京で行きつけの本屋さんに出かけることにした。たまたま前の用事が早く終わって時間ができたから行くことに決めたけれど、元々全く予定はなかったのである。

入り口近くの目につくところに並んでいる『赤と青のガウン』を見て、誇らしい気持ちになる。デザインが斬新なので、他の話題書たちと並んでいても目立って見える。

ほくほくしながら店内をうろうろして、その日の収穫品を手にレジ待ちの列に並んでいた。何気なく前に並んでいる方の手元に目をやると、なんと持っておられるではないか、『赤と青のガウン』を。何の迷いもなくお声をかけてしまった。「ありがとうございます!著者です!」と。

よくよく考えれば、私の行動はさぞかし不審であったことだろう。その年かさの女性の方は、とても怪訝な顔で「え?」と言って振り向かれた。そして、私の顔を見て(お化粧をしていてよかったと心から思った)、「え? え! え――!!」と3段階くらいでびっくりしてくださった。

そして、話題になっていたから読みたいと思って買いに来られたことを教えてくださり、「せっかくだから......サインとかもらったら......やっぱり駄目なのかしら?」と言われるので、「こんなことはなかなかないので、喜んで致しますよ!」とお返事した。

お互いの買い物を済ませ、再集合すると、同じく買い物を済ませた娘さんらしき方が近寄ってきた。「ねえ、あの、著者の方なんですって」と声をかけるお母さん。

脳に情報が到達するまで少し時間を要したようだが、事態を理解した娘さんは、びっくりしすぎてわなわなしながら、「え、すごい! お母さん! すごい、お母さん!」とそれ以外の言葉がなかなか出てこない様子。

「あの! 母に借りようと思ってたんですけど、私も買ってきていいですか?」と、慌ててもう1冊買ってきてくださった。お店の片隅をお借りして、お二人に即席サイン会をさせていただいた。「感想をまたお聞かせくださいね」と言ってお二人とはお別れしてきたけれど、楽しんで本を読んでくださっていることを願いたい。

こんな奇跡が起こるのだから、やはり本屋さん通いはやめられない。またこんな素敵な出会いがあることを祈りつつ。

(1)三笠宮寛仁(著)、文藝春秋、1971年刊
(2)東野圭吾(著)、『白鳥とコウモリ』(上)(下)、幻冬舎文庫、2024年刊
(3)日向夏(著)・しのとうこ(イラスト)、イマジカインフォス(発行)/主婦の友社(発売元)、2024年刊

 

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