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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第18回】

2014年04月09日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《PHP総研 研究員コラムより》

【第18回】 避難所に泊まり込んでの一日

 

 ただ話を聞いてまわるだけでは避難所の様子がつかみきれないだろうと、泊まり込んでみてはどうかと勧めてくれたのは高校の同級生の市職員だった。向かった先は、陸前高田市の地区本部が置かれている小学校。ここでは、地元学区の方々は小学校に隣接しているコミュニティセンターに避難し、小学校には隣の学区から避難してきている人たちが入っていた。これは藩政期から別の村だったことが大きく関係しており、避難生活や避難者支援も、その歴史や特性を十分考慮しなくてはならなかった。その避難所での4月半ばの一日を、ここで紹介しておきたい。

5:00頃から、起床して動き出す人が数多くいる。校庭からは会話する声も聞こえてくる。この時間に新聞も配達されていた。

6:00 炊き出しが始まる。
炊き出しの場はコミセンの調理場。小学校の調理室は手洗い場や洗濯室として使われていて、ここが唯一の調理場だった。調理するのはコミセンに避難している女性8名で、交代で担当していた。献立は前日に相談し決定、それを受けて食材は前夜に準備。出来上がったものを配膳し、小学校へは全員分をすべて運び出していた。

7:30 自衛隊が物資の集積場となっている体育館よりお米を搬出し、炊き出しを開始する。これは、このコミセンと小学校以外に設けられている学区内の避難所へと運ばれる。この食事の配送も自衛隊が担っていた。

8:00 地区本部担当の市職員と、応援に来ている県職員が集合。地区本部が開所する。

9:00 月・火・木・金は支援物資が一般配布されていた。
物資の集積場となっている体育館で、個人単位で、希望するものを持ち帰る。全体に数量制限はないが、ティッシュやトイレットペーパーなど物品によっては個数限定のものもあった。食料品については、必要分は避難所単位で配布しているため、基本的に一般配布は行っていなかった。

9:30 支援物資の搬入。
午前分の支援物資が、市から自衛隊によって搬入される。

11:00 物資一般配布が終了し、昼食の炊き出し開始。

12:00 昼食
朝食と同様に、コミセンの調理場からそれぞれに運び出し、配膳されていた。
日によってはパンやインスタントラーメンということもあるらしい。

午後は、イベントや相談会などが開催されていた。日によって、地区内の避難所代表が集まっての地区本部会議が行わている。

ここは、この時期でも電気はつながらず、水も給水車からのもの。移動用電源で小学校および周辺には電気が届けられてはいるものの、ごくごく最低限のものにしか使えなかった。医療面では、北海道大学の医療支援チームがコミセンに常駐してくれている。入浴は移送サービスがあるものの、片道およそ1時間。好きなときに行ける状況にはなかった。

地区本部には、避難者および各避難所からの問い合わせや相談などが多数寄せられていた。公的な手続きから生活再建、あるいは仕事のこと、家族のこと、避難生活の不便さなど、その内容も多岐にわたっていた。また、地区本部に置かれた衛星電話から連絡を取る人も多かった。担当の職員は、各避難所や地域内を適宜巡回して、状況把握に努めていた。

15:30 市からの物資搬入。
午後分の支援物資が、市から自衛隊によって搬入される。

16:30 夕食炊き出し開始。
朝食と同様に、コミセンの調理場で炊き出し。メニューは、当日届けられた支援物資の食料品の在庫状況を見て決められていた。といっても、届けられたものを好きに使えるわけではなく、地区内の避難所への配布基準にしたがってコミセン・小学校への配布量も決められていた。

18:00 夕食。

20:00 宿直者を除く市・県職員帰宅。順次消灯し、就寝の時間となっていった。

 避難生活が続いていることの疲労感こそ感じられるものの、一見すると元気に頑張っている様子がうかがえた。炊き出しを担当するお母さんたち、校庭で遊ぶ子どもたち、地区のまとめ役の方々。それも、個別にお話を伺ったり、ひとりひとりの相談の内容をお聞きすると、それぞれにとんでもない大変さを抱えこんでいる。このギャップを直視することが大切なんだ。でも、それは私にとっても辛さが刻み込まれる時間になっていった。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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