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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第22回】

2014年05月14日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

【第22回】良かれと思っての行動も

 

 震災後初のゴールデンウィークを前に、被災地で見かける現地調査の顔ぶれも変化していた。政務三役や国会議員、省庁関係者という人たちに替わって、統一地方選挙を終えた地方自治体議員や、緊急支援から復旧・復興支援へとギアを切り替えようとしているNPO関係者などの姿が目立ってきていた。地元でも、そうした外部からの支援者と力を合わせてみずから復興に取り組もうとする人たちが現れていた。

 ただ、その手法に疑問を抱いてぶつかることもしばしばだった。「被災地への緊急支援を」と東京の関係者が集めた資金を元手に、内陸自治体の商店で肉や野菜などの食材を買い込み、避難所や仮設住宅へ提供してくれている人たちがいた。苦難の日々を重ねている方々にとって、かけがえなくありがたい支援であることは間違いない。

 だが、その食材を提供されている地区では、みずからも甚大な被害を受けたにもかかわらず、少しでも地元の助けになればと自力で仮設店舗を建てて営業を再開した個人商店があった。食材を提供してくれるのはありがたいけど、これじゃ地域の再建に水を差すことになる。こっちの地元で買い上げてくれないかとお願いしてはみたが、内陸自治体の支援にもなるからやっているんだという彼らとの間で、見解は平行線のままだった。

 ある複合型公共ホールの避難所では、地元のイタリアンレストランのシェフが中心となって、調理室を借りて炊き出しをしていた。大学時代の友人が彼らを支援していたこともあって、活動の手助けになることはないかと、私もあれこれ口を挟んだり支援団体への仲介をしたりしていた。彼らの調理する品々は、およそ避難所の炊き出しとは思えない素晴らしいものだった。

 ところが、その避難所を担当する市職員の方から、ちょっと問題が起きて大変なんだと言われる。聞くと、彼らは「この避難所はよそに比べたら物資も豊富で恵まれているから」と、何ら提供していないらしい。比較的恵まれているとはいっても、ここでの食事は基本的に自衛隊が持ってくるおにぎりとパンとバナナが中心。「市から無償でここの調理室を借りているのに、そういう対応しかしないのはおかしいのではないか」と言う避難者の声は、至極もっともだ。何度かのやり取りを経て、温かい料理が提供されるようになっても、不協和音が解消されることはなかった。

 良かれと思っての行動が、広く良い影響をもたらすとは限らない。どうやったら全体がうまくまわるのだろうと悩みを深くしていたとき、京都からNPOセンターや災害ボランティアセンター、そして議員の友人たちが現地を訪れてくれた。地元の社会福祉協議会の中心メンバーが津波の犠牲となり、ボランティアセンターとしてほとんどまったく機能できない状態となっていたことから、物・心・人の多層的なサポートをするための先遣隊としてやってきた彼らの存在はとても心強く、私は百万の援軍を得た思いだった。

 現地を案内しながら、地元の態勢などのおおよその現状を伝え、あわせて頼み込む。「これだけの被害だから、すぐに再建できるなんて誰も思ってやしない。でも、希望が欲しい。支援が中心になるのはやむを得ないけれど、自立を手助けするための具体的なメニューが、これからは絶対に必要になる。いつまでも受け身のままでは、みんな立ち上がる気力をなくしてしまうから」。無理難題をお願いしていると思いながら、彼らなら何とかしてくれると私は確信していた。

 そう言えばと、ひとりが口を開いた。福島での会議の際に、僕のレポートがちょっとした話題になったという。官僚の自分たちではなかなか書けないことを、あれだけ本部に報告してくれてありがたい、と。遠く離れた現地対策本部で、言いようのない苦労をしている人たちの助けに少しでもなっているのなら、こんなにうれしいことはない。現地での苦しい毎日が、ちょっと救われたような思いだった。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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