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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第24回】

2014年05月30日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》

 

【第24回】なんで内閣府の人が来たんですか

 4月半ば頃、国の対策本部から避難所の定点観測をするという方針が伝えられた。避難所の状況がどのように移り変わっているのか知りたいから、というのが趣旨のようだった。だが、対象となるのは現地対策室の置かれている被災3県それぞれ2か所ずつ。報告も1週間に1回程度の想定。思いはわからないでもないが、避難所の状況は千差万別だし、2か所の状況を知っても全体を推し量ることなど到底できやしない。

 東京の本部が、この定点観測でわかったつもりになることが懸念されるのではないか。現地対策室はただでさえ避難所を十分まわれていないのに、ますます足が遠のくのではないか。定点にこだわらず、幅広く避難所の状況を把握することが重要ではないか。

 いろいろ意見を伝えたが、もう政務にも話が通っていることだからと言われるばかり。決まったことだから変えられない、という方がよっぽど始末が悪い。挙げ句の果てに、岩手は私に担当して欲しいという。渋々引き受けながらも、私はすっかり呆れていた。といっても、仕事は仕事。2か所の定点観測は受け入れながら、ほかの避難所の状況報告も毎日届けることにして、気持ちばかりの抵抗を示すことにした。

 その定点観測対象のひとつにも、以前触れたこともある、市が国に報告した避難所リストから漏れているところをあえて選んだ。

 ここはゴールデンウィーク中に、全壊および大規模半壊世帯のみの構成へと転換していた。ライフラインが回復し、かつ自宅の損傷のない世帯は要支援対象からは除外。地区内の空き家に寝泊まりしているのは2世帯6名まで減った一方、半壊家屋の2階等で寝泊まりしている被災者は18世帯25名を数えていた。余震によって倒壊する危険がつきまとうものの、慣れない環境での四六時中の集団生活も限界に達していたようだった。

 炊き出しや日常の集いの場は、別の廃工場にテント小屋を設置することによって対応し、ここを避難所と位置づけていた。だが、家主に退居を求められたことから、また別の半壊家屋に日中の滞在場所を移さざるを得なくなっていた。危険は伴うものの、がれきの中から使えそうな材木を拾い集めて補強するなど、工夫を重ねて難をしのぐ。GW前後に、こうした事情の変更が起きた背景には、そろそろ日常生活に移りたいとする家屋等提供者の意向や、支援物資の取り扱いをめぐる直接的被災者と自宅無事世帯との対立などがあった。

 にもかかわらずだ。

 市の物資配送の担当が、1日2回搬入してくれていた自衛隊からヤマト運輸に替わった途端に、物資が届かなくなった。市の対策本部に直接受け取りに行けば渡してもらえるが、配送はしてくれない。担当者には配送リストに加えるよう申し出ているが、具体的な改善はまったく見られない。ついには、プロパンガスや薪・炭などを受け取りに行ったところ、避難所ではないから食材以外は提供できないと言われたという。

 私が足を運んだときは、ちょうど世話役の人たちがカンカンになって怒っているところだった。一緒に市の本部に行って話をしてくれないか、という依頼を断る理由もない。同行すると、「なんで内閣府の人が来たんですか」と言われる始末。事情を聞くと、市の定義する避難所の考え方を説明されるばかり。大ざっぱに意訳すれば、指定の避難所に行かずに勝手に自主避難しているところには、貴重な物資を提供することはできないと言うのだ。

 地域のまとまりや生活状況を見たら、立派な避難所じゃないですか。現場をどのように評価しているんですか。というと、驚くことに職員は誰も現場を訪れたことがないという。国から派遣された担当者に、もっと現場をまわれと口が酸っぱくなるほど繰り返してきたのに。この避難所まで、市の対策本部から歩いて30分もかからないのに。

 こんなところが数多くあるわけでは決してない。特殊な事例と言われればそうかもしれない。だが、いろんな地域のいろんな場面で、行政担当者の説明と実態との乖離が見られ、被災者対応への不満や不信につながっていた。ゆえに、市から提供される情報への信頼感も乏しく、憶測や未確認情報などに振り回されたり、混乱や困惑を招くなどの悪循環を引き起こしていた。その意味ではとても象徴的な現場だと、私の眼には映っていた。

 

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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