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光延東洋~太平洋戦争、知られざる諜報戦



2017年06月09日 公開

6月9日 This Day in History

今日は何の日 昭和19年6月9日

イタリア駐在武官・光延東洋殺害さる

昭和19年(1944)6月9日、イタリア駐在武官・光延東洋海軍大佐が、イタリアのモンテ・カティーニ北方の峠道で、パルチザン(非正規軍)によって殺害されました。その裏にはアメリカやソ連、そして日本の諜報組織の知られざる闘いがありました。

太平洋戦争において、日本は情報戦で敗れたと喧伝されますが、必ずしもそうとばかりは限りません。実は敵国内部に深く潜入する組織を作り、活動を行なっていたのです。

昭和12年(1937)、日本陸海軍、外務省、内務省の情報組織を統括する目的で、内閣情報部が誕生しました。肝煎りは山本五十六海軍次官と元南京総領事の須磨弥吉郎で、それまで各組織が別個に収集していた情報を集約し、総合的な判断や戦略立案に役立てるためでした。そして情報収集の実務には海軍から光延東洋中佐と佐藤豊三郎少佐が出向、陸軍からも2名が出向してこれにあたります。光延はロンドン軍縮会議予備交渉で山本五十六の副官を務めた、山本の腹心でした。

そして昭和14年(1939)から16年にかけて、情報部の要員は世界各地に散ります。光延はイタリアのローマに向かいました。日米関係がいよいよ緊迫の度を増した昭和16年(1941)1月、内閣情報部生みの親の須磨弥吉郎はスペイン公使としてマドリッドに赴き、情報戦の世界で有名なべラスコと接触、協力を取り付けます。具体的にはべラスコとその配下による欧州とアメリカを舞台とする諜報組織の立ち上げで、「東(とう)」と名付けられ、同年12月には6人がアメリカ国内に入りました。そしてアメリカで収集した情報はローマの光延(大佐に昇進)に届けられ、光延はその情報と、同盟国のイタリア、ドイツで得た情報を付き合わせ、検証する任務につきます。

昭和19年初夏、光延や須磨たちは、正念場を迎えました。「東」の要員がアメリカ軍の一員になりすましてイタリアに上陸、フィレンツェ北方の緩衝地帯を目指したのです。彼が携えていたのは、最終段階に入った原子爆弾の開発情報でした。

6月6日、ノルマンディー上陸作戦が始まると情報戦にも動きが生じ、べラスコが敵に拉致されかかり、辛くも逃走。そして2日後の6月8日(日本時間9日)、事件が起こります。

光延大佐と副官の山仲伝吾中佐を乗せた車がフィレンツェからの帰途、モンテ・カティーニ北方のアべニン山中の峠道で連合軍側パルチザンに襲われます。この時、二人は下車すると、山仲副官は鞄を抱え、崖から飛び降りて逃走、光延はそれを掩護して銃撃され、死亡しました。山仲はドイツ軍駐屯地に逃げ込み、日本海軍武官府に帰りつきます。

ところがその3日後、ヴェネツィアでイタリア駐在日本大使館全権公使の加瀬俊一が誘拐され、彼のもとに届けられたばかりの鞄が奪われました。実はその鞄こそ、光延が命を捨てて守り、山仲が敵前逃亡の汚名を承知で運んだものであり、その中身は間違いなく、アメリカ軍になりすました「東」要員がもたらした、原子爆弾の開発情報であったはずでした。

加瀬は素裸で保護されますが、奪われた鞄は二度と戻りませんでした。鞄を奪ったのは連合軍側組織ですが、光延らを襲ったパルチザンの背後にソ連がいることから、米英ではなくソ連の手であった可能性が高いといわれます。もし鞄が日本に届いていたら、原爆に対する何らかの手立てが打てたのかもしれません。戦争の陰でこうした熾烈な諜報戦があり、人知れず命を落とした海軍軍人がいたことも、私たちは知っておくべきでしょう。

なお、この事件をもとに、西木正明氏が『梟の朝』というノンフィクション・ノベルを執筆しています。



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