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嘉納治五郎と幻の東京オリンピック

2017年10月09日 公開

歴史街道編集部

聖火台
 

アジア初のオリンピック大会が東京で開催

今日は何の日 昭和39年10月10日

昭和39年(1964)10月10日、アジア初のオリンピック大会が東京で開催されました。かつては10月10日は東京五輪にちなみ、「体育の日」として国民の祝日とされていましたが、現在は「ハッピーマンデー制度」のため、10月の第2月曜日が「体育の日」となりました。

ところで、ご存じの方も多いかと思いますが、この東京オリンピックの24年前、昭和15年(1940)に開催されるはずだった幻の東京オリンピックがありました。東京での開催が決定していながら、日中戦争などの影響から日本政府が開催権を返上した大会です。そしてこの東京オリンピックの開催に、アジア初のIOC(国際オリンピック委員会)委員として尽力したのが、柔道の創始者である嘉納治五郎です。

近代オリンピックは、フランスのクーベルタン男爵によって復活しましたが、第4回ロンドン大会まではアジアからの参加国がありませんでした。そこでクーベルタン男爵は、駐日フランス大使に日本からのIOC委員の推薦を依頼したところ、嘉納治五郎に白羽の矢が立ったのです。クーベルタン男爵は、スポーツを通じて青少年を教育するという理念に燃える教育者でもあり、学習院の教頭や東京高等師範学校(現在の筑波大学)の校長を務め、柔道をはじめとして教育にスポーツを取り入れようとしていた嘉納治五郎の思想と相通じるところがあったといえます。

治五郎は明治44年(1911)にオリンピック選手派遣の母体として大日本体育協会を設置し、第5回ストックホルム大会に2名の選手を派遣、自らも日本選手団の団長として参加しました。これ以降もほとんどのIOCの会合や大会に参加しています。以降、日本選手がオリンピックに参加を続け、メダルも獲得する活躍をするようになると、日本でオリンピックを開催したいという気運が国民の間に広がってきました。それを受けて、治五郎たちは1940年の第12回大会の東京招致を目指すこととなります。

この大会の開催地には東京を含めて10カ国もの立候補がありました。最終的にローマ(イタリア)とヘルシンキ(フィンランド)と東京の3都市での争いとなり、激しい招致合戦が繰り広げられました。東京開催における最大の障害としては、欧米から遠く離れていることでの旅費・移動日数の問題がありました。この問題に対して、開催地を決定するためのIOC総会で、アジアでの開催によってオリンピックは真に国際的な大会となれるという主張から、治五郎は次のような演説を行なっています。

「オリンピックは当然日本に来るべきなのに、もし来ないのであれば、正当な理由が退けられたことになる。それならば日本からヨーロッパへの参加もまた遠距離であるから、出場する必要ないという事になる。そうなれば日本は更に大きな世界的な大会を開催してもよかろうと思っている」

実際のところ、治五郎たちは水面下では各国首脳やIOC委員、関係者への地道な折衝を行なっていました。それでも開催国決定の切所で、これだけの強い信念を堂々と述べることができるとは、武道の気合いにも通じると感じます。治五郎らの努力が実を結び、見事オリンピックの東京開催が決定します。

ところが、治五郎は開催が正式決定した昭和13年(1938)のカイロでのIOC総会からヨーロッパ、アメリカを訪問しての帰国の途中、日本の土を踏むことなく洋上で亡くなります。そして治五郎の死から2カ月後、日本政府は支那事変の影響から、東京でのオリンピック開催権を返上する決定を下すことになるのです。

その後、日本が再度、1964年のオリンピック開催権を手にした時のIOC会長はアメリカのA.ブランデージでした。彼は治五郎とも親しく、1940年の東京開催を最後まで支持した人物でした。治五郎がIOC委員として培ってきた人脈が、再度の東京開催決定を後押ししたともいえます。

東京オリンピックでは、柔道が初めて正式種目として採用された大会でもあります。治五郎の熱意と信念が、日本のスポーツを、そして日本の柔道を、世界の舞台へと大きく飛躍させたといえるでしょう。

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