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平教経~源義経を追い詰めた平家随一の猛将

2018年04月03日 公開
2023年03月31日 更新

『歴史街道』編集部


 

『平家物語』が伝える平教経の奮戦

勇猛果敢な平家の公達・平教経は、平清盛の異母弟・教盛の息子として、永暦元年(1160)に生まれました。清盛の甥にあたることになります。今回は、平教経に注目したいと思います。

治承3年(1179)に能登守に任官。 寿永2年(1183)7月、木曾義仲に追われて、平家一門は都落ちとなります。一行の中に、教経の姿もありました。しかし、彼が武勇を発揮するのはここからです。

同年閏10月、平家が本拠を置く屋島に向けて、木曾義仲は足利義清を大将とする軍勢を向かわせます。これを迎撃した平家軍の大将が従兄の平知盛、副将が教経でした。

「者ども、北国の奴ばらに生け捕られては無念であろう」と鼓舞するや、船を繋ぎ合合わせて板を渡し、その上を騎馬で渡る戦法で、教経が先頭に立って足利勢に襲い掛かりました。この教経の猛襲で山国育ちの北国勢は算を乱し、侍大将は討ち取られ、大将の足利義清も自刃に追い込まれました。水島の戦いと呼ばれるものです。

木曾義仲は、平家追討に失敗しました。 やがて上方では源氏同士の軍勢が衝突しますが、西国の平家も安泰であったわけではなく、四国の源氏方の武将たちが平家に攻めかかります。これを迎え撃った教経は敵を散々に破り、淡路島に追いつめて討ち果たしました。 しかしなおも各所で反平家の動きが起こり、教経は転戦しつつこれらを鎮定します(六ケ度合戦)。

翌寿永3年、木曾義仲を討った源範頼・義経の軍勢が、福原の平家を攻めるべく進攻。ここで起こるのが一ノ谷の合戦でした。『吾妻鏡』には教経はこの戦いで討たれたと記されますが、真偽のほどは不明です。

『平家物語』には、最も激戦を予想される要所を任された教経が、総大将の平宗盛にこう応えています。

「合戦は己一人の一大事と覚悟してこそ勝てるもの。狩りや漁のように、足場の良い場所のみを選んで、悪い場所にはいかぬなどと申していては、よもや勝利はおぼつきませぬ。幾度であろうと、難敵にはこの教経があたり、打ち破ってご覧にいれますので、ご安心召されませ」

一ノ谷合戦では、教経の奮戦むなしく源義経の鵯越えの逆落としに平家軍は総崩れとなりました。しかし続く屋島の合戦でも教経は奮戦し、一説には得意の弓で義経を狙って源氏の武者を次々に射倒し、義経をかばった佐藤継信をも討ち取りました。

しかし、平家軍はまたも敗れます。そして、元暦2年3月24日の壇ノ浦の合戦。船合戦で平家の敗北が決定的になると、二位の尼と安徳天皇をはじめ平家一門は次々と海に身を投じました。

しかし教経は戦いをやめようとせず、敵を次々と射落としました。矢が尽きると、太刀を振るって、近寄る敵を斬って捨てます。その様子に従兄の平知盛が「これ以上、罪作りをするな。さしてよき敵でもあるまいに」とたしなめました。

「ならばよき大将と刺し違えん」。教経は敵を蹴散らしながら船から船に飛び移り、源義経を探します。そして義経を見つけて組もうとしますが、義経は身軽にこれをかわし、「八艘飛び」で彼方へと去りました。もはやこれまで、と見極めた教経は、己の最期を飾ります。

以下は『平家物語』の一節です。

今はかうと思はれければ、太刀・長刀海へ投げ入れ、甲も脱いで捨てられけり。鎧の草摺りかなぐり捨て、胴ばかり着て、大童(わらわ)になり、大手を広げて立たれたり。およそあたりを払つてぞ見えたりける。恐ろしなんどもおろかなり。能登殿、大音声をあげて、 「われと思はん者どもは、寄つて教経に組んで生け捕りにせよ。鎌倉へ下つて、頼朝に会うて、ものひと言言はんと思ふぞ。寄れや、寄れ」 とのたまへども、寄る者一人もなかりけり。 ここに土佐国の住人、安芸郷を知行しける安芸大領実康(あきのだいりょうさねやす)が子に、安芸太郎実光(あきのたろうさねみつ)とて、三十人が力持つたる大力の剛の者あり。われにちつとも劣らぬ郎等一人、弟の次郎も普通には優れたるしたたか者なり。安芸太郎、能登殿を見たてまつて申しけるは、 「いかに猛うましますとも、われら三人取りついたらんに、たとひたけ十丈の鬼なりとも、などか従へざるべき」 とて、主従三人小舟に乗つて、能登殿の船に押し並べ、 「えい」 と言ひて乗り移り、甲のしころを傾け、太刀を抜いて、一面に打つてかかる。能登殿のちつとも騒ぎたまはず、まつ先に進んだる安芸太郎が郎等を、裾を合はせて、海へどうど蹴入れたまふ。続いて寄る安芸太郎を、弓手の脇に取つてはさみ、弟の次郎をば馬手の脇にかいばさみ、ひと締め締めて、 「いざ、うれ、さらばおのれら、死出の山の供せよ」 とて、生年二十六にて、海へつつとぞ入りたまふ。

享年26。

『平家物語』の見事な調子と相まって、まさに平家一門の最期を飾った教経の奮戦は、日本人の心を打ってやみません。

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