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天下人の「人を見抜く方法」~信長・秀吉・家康に学ぶ人材活用

2019年01月24日 公開

童門冬ニ(作家)

織田信長
 

能力主義に徹した織田信長

織田信長が岐阜に拠点を定めていた頃の話だ。メキメキと頭角を現わしはじめた信長は、美濃国(岐阜県)から近江国(滋賀県)の豪族たちを支配しはじめた。豪族たちは、信長のところに息子を人質に出した。多いときは、百人くらいの人質がいたという。

信長は、こういう少年たちといろいろな話をしたり、自分の経験を語ったりするのが好きだった。が、そんなときにも信長は、鋭い目で少年たちの資質を見抜こうとした。少年たちにもやがて信長の意図が伝わった。そのため、信長が、

「今日はこういう話を聞かせてやる」

と言っても、決して信長の話を楽しんでばかりはいられなかった。

(わたしたちは信長さまに試されている)

という緊張感を持ちつづけていたからだ。

こんな試し方をされたことがある。

「三人来い」

信長は人質の部屋に声をかけた。三人の少年が出てきた。中に近江国日野城主の息子の蒲生氏郷が入っていた。

「風呂場にカミソリを忘れてきた。取ってこい」

信長はそう告げた。そのとき、

「ただし、一人ずつ行け」

と命じた。やがて三人が戻ってきた。甲という少年がカミソリを持っている。得意そうな表情をしていた。乙という少年は、面目なさそうにうつむいている。信長が聞いた。

「それぞれ、どんな探し方をしたか話してみろ」

まず乙に目を向けた。乙はモジモジしながら、

「夜でございますので風呂場は真っ暗でした。何も見えませんので怖くなり、すぐ戻ってまいりました。申し訳ございません」

と言った。

信長は蒲生氏郷に目を向けた。

「おまえは?」

「わたくしは一番最後に風呂場にまいりました。灯を持って、くまなく探しましたがございませんでした。と申しますのは、すでに甲殿が探し当てていたからでございます」

そう告げた。そこで信長は甲に聞いた。

「おまえはどうやってカミソリを探し当てたのだ?」

すると甲は前へ乗り出してこう語った。

「風呂場へまいりましたが、乙殿の言うように中は真っ暗でした。そこでわたくしは、風呂場の敷板を足の先ではずみをつけて踏んでみました。すると、闇の中で音がして、カミソリが跳ねあがり光りました。そこで場所の見当をつけて、カミソリを拾いあげたのでございます」

「なるほどな。なかなかの知恵者だ」

信長はそう言った。甲はほめられたものと思い、得意そうに乙と蒲生氏郷の顔を見た。

「どうだ?」

と言わんばかりの表情である。ところが信長はこういう論評をした。

「乙は臆病者だ。武士の息子のくせに、闇が怖いなどということでは将来役に立たん。が、だからといって甲が利口だとは言えぬ。聞くところによれば、甲は灯を持っていかなかったそうだな。そこで知恵を働かせて足の先で敷板を踏み、その拍子に跳ねあがったカミソリを拾ったということだ。しかし、もしカミソリが遠くではなく、おまえの足の下にあったらどうする? 足を切ってしまうぞ。その方法は決していいとは言えない。そこへいくと、氏郷は慎重に灯を持って、全体を照らして探した。灯を持っていれば、たとえカミソリが落ちていても足を切ることはない。氏郷がカミソリを探せなかったのは、すでに甲が拾って持ち去った後だからだ。おれは三人の中では氏郷を買う」

信長は、こういうように、

「古い価値観を破壊するときに、最も必要なのは時間との闘いに耐えられる才覚だ。人質の中では氏郷が一番いい」

と考え、自らが見出した少年蒲生氏郷をその後は自分の弟子のように可愛がった。

岐阜には有名な「楽市・楽座」がつくられた。いまで言えば、規制の緩和、商業の自由化である。信長は自分がつくったこういう商業の町を氏郷を連れて歩いた。そして「楽市・楽座」の性格を詳しく説明した。やがて氏郷が成人すると、信長は自分の娘を氏郷の妻にした。言ってみれば氏郷は織田信長の養子になった。それほど信長は氏郷に期待していたのである。

しかし、織田信長が死んだ後、蒲生氏郷は豊臣秀吉の家臣となる。それは氏郷が、

「信長公の事業を継続する天下人は、秀吉殿だ」

と思っていたからである。

したがって氏郷は、

「秀吉殿に仕えるのではなく、信長公の事業を継承した羽柴殿に仕えるのだ」

と考えていた。

このへんが癪にさわったのか、あるいは信長の娘婿だという氏郷の立場がつねに意識の邪魔になったのか、やがて秀吉は氏郷を東北の会津に転封させた。そして氏郷は突然死んでしまう。

「蒲生氏郷は、豊臣秀吉によって毒殺された」

という説が残っている。

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