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「三国志好き芸人」が語る、 その魅力と活かし方~老若男女にオススメ!

2018年12月21日 公開
2022年09月21日 更新

やついいちろう

やついいちろうやついいちろう
お笑い芸人。昭和49年(1974)生まれ、三重県出身。 平成9年(1997)、お笑いコンビ「エレキコミック」を結成し、ボケを担当。 三国志の武将を紹介するポッドキャスト番組「三国志TV」に出演したり、 それを書籍化した『エレキコミック やついいちろうの三国志くん。』を 発行するなど、芸能界屈指の三国志マニアとして知られる。
 

新聞のコマーシャルに漫画が使用されたり、最近では、 『九州三国志』というスマートフォン用のゲームが リリースされたりと、世代を問わずに、「三国志」が 愛されている。でも、そもそも何が面白いの? 芸能界きっての三国志通・やついいちろうさんが、 意外な視点から、教えてくれました。

 

得体が 知れないけれど、 大好きな人物

いきなりですが、三国志を知らない方にも、すでに知っている方にも、お伝えしておきたいことがあります。

それは、三国志の世界は、男性にとっても、女性にとっても、「教養として、大いに使える」ということです。

では、どう使えるのか。それについては、後程お話ししますが、「三国志を知らない」という方は、最後にストーリーを簡単にまとめてみたので、そこから読んでみて下さい。

ちなみに、三国志と一口に言っても、史実に沿って記された「正史三国志」と、フィクションを交えた「三国志演義」があります。ここでは、より親しみやすい「三国志演義」をもとにしていきます。

まずは、僕の好きな人物から紹介していきましょう。

魅力的な人物の多い三国志の中でも、僕が一番好きなのが、劉備です。

劉備は「三国志演義」の主人公で、そんな人物を選ぶなんてひねりがない、と思われるかもしれません。でも、劉備こそ、知れば知るほど、面白い人物なんです。

そもそも、僕が三国志を好きになったのは、小学生の時にパソコンゲームで遊んだのが始まりです。そこから、横山三国志と呼ばれる、横山光輝の漫画や、吉川英治の小説を読むようになりました。

でも、横山三国志を最初に読んだ時、僕は、「劉備は、得体が知れない」と思ったんです。

というのも、いいところが、あんまりないからです。関羽や張飛のように武勇に優れているわけでもなく、諸葛亮のように頭脳が優れているわけでもない。

それにもかかわらず、そういう自分より力のある人間を惹きつけるだけの魅力を持っている。

実際、僕がやったゲームでは、武力とか知力、魅力といった項目を、1から100の数値で評価するのですが、劉備の魅力はだいたい100です。

でも繰り返しますが、劉備には突出した能力があるわけでもないし、織田信長のように、わかりやすい革新性があるわけでもありません。それなのに人を惹きつける。

つかみどころがないですよね。

けれど僕は、横山三国志のある場面を読んでいて、劉備の持つ「したたかさ」に気づいたんです。

ある時、劉備は曹操に呼び出されて、「今の世で英雄と見なせる人物は誰か?」と質問されます。

そこで、劉備が袁紹らの名前を挙げると、曹操はそれを否定して「君と余だ!」と断言しました。劉備を危険な存在と見なしていた曹操は、劉備に野心があるかどうかを試そうとしたのです。

ちょうどその時、雷が鳴り響きました。すると劉備は、とっさに机の下に隠れ、「雷が大嫌いで…」と、曹操に弱々しく言うのです。

当然、曹操は、「恐るるに足らん」と思いますよね。でもこれ、実は曹操を油断させるための演技だったのです。

つまり、あえてバカっぽく見せることで、曹操の警戒心を緩め、来るべき時に備えようとしたのです。これは、相当したたかでないとできません。

しかも劉備は、諸葛亮に対しても同じことをやっています。諸葛亮に配下になるようお願いする三顧の礼では、「自分は策を考えられないので、力を貸して下さい」という感じで頼んでいます。

自分よりずっと若くて、実績のない人間に対して、ずいぶんと下手ですよね。こういうところに、劉備の凄さが垣間見えるんです。
 

曹操、ダメだって…

それに対して、曹操はどこか威張っている。例えば赤壁の戦いの後、蜀を治める劉璋の使者として、張松という人物がやってくるのですが、この人の容貌があまりよくなかったようなんです。すると曹操は、冷たくした挙句、百叩きの刑にして追い出してしまう。

「お前、それは絶対やっちゃダメだろ!」っていう話ですよね。

その後、張松は劉備と会うのですが、曹操とは一転して、誠実な対応をされる。すると、張松が劉備に蜀を治めてもらおうと考えるようになり、劉備は蜀へと向かうことになるのです。

こういう面を見ると、劉備は本当の意味での頭の良さを持っていたのだと思います。

また、名だたる武将たちが劉備についてくるのは、「相手を理解する力」が高かったからではないでしょうか。

誰だって、「自分はわかってもらえない」と思うと、ストレスがたまりますよね。でも劉備は、そういう人間の微妙な機微を読み取り、「お前のこと、わかるよ」という感じで接することができたのではないでしょうか。

自分をわかってくれる人がいると、人間は頑張れますよね。だから、あれだけの有能な武将たちが劉備に従ったのでしょう。

実際、劉備が亡くなった後、蜀の内部でゴタゴタが起こります。諸葛亮ですら、部下の馬謖がいうことを聞かずに処刑しなければならなくなったり、諸葛亮の死後には魏延が反乱を起こそうとしたり……。

そう考えると、劉備は人を使うのがとてもうまかったんだなあ、と痛感します。

だから僕自身、人生で一番手本とすべきは、劉備のような生き方だと思っているのです。

劉備は漢王朝の末裔を名乗っていますが、曹操や孫権のように、生まれつきの確固たる地盤があるわけでもなく、突出した能力があるわけでもない。それでも高い志を掲げて、這い上がっていく。

夢をかなえようという若い人にとっては自己投影しやすいでしょうし、人を束ねる立場の人にも、参考になるのではないでしょうか。

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