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劉備が「一国一城の主」になれたほんとうの理由~漢中争奪戦でみせた真の実力

2019年02月04日 公開

守屋淳(作家)

劉備
 

劉備(りゅうび)
161~223年。字は玄徳。『三国志』の時代、蜀漢の初代皇帝。前漢景帝の子孫。孫権とともに曹操を赤壁で破り、その後蜀を平定、221年、蜀漢王朝を開いた。

 

大将に不可欠な能力とは

先日、ある勉強会で、ベンチャー企業の社長さんからこんな質問を受けました。

「大将に一番必要な能力って、中国史的には何になるんですか」

さすが、現役社長はいきなり核心をつくような質問をしてくるなあ、と思いつつ、筆者はこう答えました。

「それは、時代によって変わってくると思いますが、たとえば有名な『三国志』の時代であれば、『部下を食わせること』になるんでしょうね」

おそらく「勇気」とか「智謀」といった答えを予想していた社長さんは、驚きながら、

「部下を食わせることですか?」

と聞き返してきました。

「そうなんです。『三国志』の時代は、地球が寒冷化してしまって食糧難の時代。だから、まず部下をきちんと食わせられる大将じゃないと、軍隊が瓦解しちゃうんですね」

「じゃあ劉備とかも、人徳があるとか言われてますけど、本当は略奪とかしまくった悪い人なんですか」

「劉備は、今でいえば金などで動く傭兵部隊の隊長と考えればわかりやすいです。実際、陶謙、袁紹、曹操等と、やたら仕える主を変えていますよね。基本的に雇主から何かしら支給を受けていたりもしたので、他の英雄に比べればそんなに酷いことはしていなかったんじゃないでしょうか」

よく小説やドラマなどでは、劉備は「徳の人」という設定になっています。戦にはからきし弱いが、その素晴らしい人柄に関羽や張飛のような豪傑が魅せられ、つき従っているというイメージですが、現実には、戦はおそらくそれなりに強かったのではないかと筆者は考えます。実際、曹操や夏侯淵(かこうえん)といった武将と戦火を交えた219年の漢中争奪戦では、次のような目覚ましい働きをしているのです。

このとき劉備は、魏の武将・夏侯淵と定軍山という要衝の争奪戦を演じました。

劉備は、部下の黄忠(こうちゅう)に命じて高所を確保させます。黄忠が陣大鼓をドンドンと打ち鳴らして気勢をあげ、一気に攻め下ると、夏侯淵の軍は総崩れになりました。黄忠はここぞとばかり攻め込み、夏侯淵・趙顒(ちょうぎょう)らの首を討ち取ります。

この知らせを聞いた曹操は、みずからが兵を率いて長安を出発し、大挙して漢中を目指しました。劉備は「曹操が来る」という情報に、こんな見通しを述べます。

「曹操がやって来たとて、何ができよう。漢中は、ぜったいわしの手から離れはせん」

曹操が到着したとき、劉備は準備万端をととのえていました。周辺の軍勢をすべて要害に拠らせ、戦いを避けてもっぱら守備を固めます。曹操は数か月も攻めあぐみ、その間、脱走兵が続出します。

夏になって、仕方なく曹操は引きあげ、劉備は予言どおり漢中を防衛しました。

この漢中の戦い、ドラマでは劉備が特異的に強くなった印象を受ける場面ですが、おそらくこれが彼の実力だったのです。

では、なぜ彼は弱く見えてしまうのか。それは傭兵隊の隊長は、自分が参加した戦の敗勢が濃いと見るや、とにかくさっさと逃げて虎の子の軍勢を損耗しないようにするからなのです。現代でいえば、個人のコンサルタントが、傾いたクライアント企業からさっさと逃げて、自分に傷がつかないようにするのと同じことです。

しかし、そうして虎の子の部下を守り、食べさせ続けたことで、ある日、官僚組織を作り得る智謀を備えた諸葛孔明とその仲間に出会い、彼は一国一城の主にまでなっていったのです。

※本稿は、守屋淳著『本当の知性を身につけるための中国古典』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。



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