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蘇我物部戦争(丁未の乱)と第32代・崇峻天皇弑逆事件

2019年08月05日 公開
2023年10月04日 更新

吉重丈夫

崇峻天皇
 

知っておきたい皇位継承の歴史

令和改元という節目の年に、歴代天皇の事績をふりかえります。今回は「崇峻天皇」をお届けします。

※各天皇の年齢等については数え年で計算して記しています。
※即位年、在位年数などについては、先帝から譲位を受けられた日(受禅日)を基準としています。
※本稿は、吉重丈夫著『皇位継承事典』(PHPエディターズグループ)より、一部を抜粋編集したものです。
 

第32代・崇峻天皇
世系27、即位35歳、在位5年、宝算40歳

皇紀1213年=欽明14年(553年)、欽明天皇の第12皇子として誕生された泊瀬部稚鷦鷯皇子(はつせべわかさぎきのみこ)で、母は蘇我稲目の娘・小姉君(おあねのきみ。堅塩媛の妹)である。敏達天皇、用明天皇、後の推古天皇の異母弟に当たる)。

皇紀1247年=用明2年(587年)夏4月9日、先帝・用明天皇が崩御される。

ここで物部守屋は再び泊瀬部皇子(崇峻天皇)の同母兄・穴穂部皇子を立てようとする。

そこで6月7日、物部守屋が立てようとした穴穂部皇子(母は小姉君)を蘇我馬子が攻め滅ぼす。

穴穂部皇子を皇位に就かせないよう、馬子が強引な手段に出たのであった。さらに翌6月8日には宣化天皇の皇子・宅部皇子も誅殺する。そして7月、遂に「丁未の乱」(物部守屋の変)が勃発する。
 

丁未の乱

用明天皇が崩御された直後の用明2年7月、蘇我馬子宿禰大臣は他の皇子や群臣と共謀し、物部守屋大連を滅ぼそうと企み、軍を率いて河内国渋川郡の守屋の館を襲撃する。

大連は稲を積んだ砦を築いて迎え撃った。蘇我と物部との抗争は仏教に対する姿勢の違いはあるが、根本は皇位継承に関する争いであった。

蘇我勢に加わっていた先帝・用明天皇の皇子・厩戸皇子(聖徳太子)は形勢不利を悟り、「今私共を勝たせて頂けば必ず仏法を守護する四体の護法神(護世四王、四大天王)のための寺塔をお造りします」と祈願され、蘇我馬子もまた同じく「諸天王が助けて下されば、必ず寺塔を建てて三宝を広めます」と誓う。

結果は蘇我氏の勝利で終わって物部氏が滅んだ。厩戸皇子は摂津国難波に四天王寺(大阪市)を建立され、また、蘇我馬子は明日香に法興寺(仏法が興隆する寺、後の飛鳥寺)を建立した。

皇紀1247年=用明2年(587年)8月2日、先帝・用明天皇に続いて蘇我稲目の外孫・泊瀬部皇子(35歳)が崇峻天皇として即位される。都を大和国倉梯柴垣宮(奈良県桜井市倉橋)に置かれた。

「丁未の乱」(蘇我物部戦争)の戦いで蘇我が勝利し、皇位は蘇我系の皇子・泊瀬部皇子(崇峻天皇)が継承される。翌皇紀1248年を崇峻元年とする。

春3月、大伴糠手連の娘・小手子を妃に立てられる。

皇紀1252年=崇峻5年(592年)2月、「蘇我馬子に関し下されし密勅」を発せられる。「蘇我馬子は内に私欲を縦(ほしいまま)にし、外偽りに似たり。如来の教えを興すと雖も、誠に忠義の情なし。是を如何にか為む」と。

10月4日、蘇我馬子に推されて即位された崇峻天皇であったが、馬子が実権を握っており独断的で、崇峻天皇は内心彼を排除すべきと考えておられた。
 

崇峻天皇弑逆事件

この年皇紀1252年=崇峻5年(592年)11月3日、蘇我馬子が崇峻天皇を殺害する。蘇我物部戦争を戦って勝利し、蘇我系の崇峻天皇が即位されたにもかかわらず、その結果蘇我馬子の権勢が強くなりすぎ、崇峻天皇は馬子を排除しようとされ、これを知った馬子が逆に天皇を殺めてしまった。

前年新羅征伐のための大軍を筑紫に派遣されて生じた軍事空白を突いての、史上初の大逆事件であった。崇峻天皇はこうして在位5年、宝算40歳で崩御された。

『日本書紀』には、妃の小手子が天皇の寵愛が衰えたことを恨み、天皇が漏らされた「いつかこの猪の頸を斬るがごとく、朕が嫌しと思うところの人を斬らむ」という独り言を、蘇我馬子に密告したことが、崇峻天皇弑逆事件のきっかけとなったとある。

崇峻天皇と小手子との間には蜂子皇子と錦代皇女の一皇子一皇女がおられた。

臣下の者の天皇弑逆事件としては、日本建国から1250余年経って初めてのことであり、この事件がおよそ半世紀後の「乙巳の変」に繫がって、蘇我氏が滅亡する原因となった。

なお、蘇我馬子は天皇弑逆という大逆事件を起こすが、それによって自ら天皇に即位することは考えていなかった。しかしここで馬子は何の咎も受けていないことも不思議に思われる。それだけ馬子の権勢が絶大だったということである。

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