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自然災害、疫病、黒船来航…近世の日本は「未曽有の危機」にどう立ち向かってきたのか



2020年07月31日 公開

河合敦(歴史研究家)

黒船と坂本龍馬

天災・戦争・恐慌……今回のコロナ禍以外にも、この国は様々な非常事態に直面してきた。月刊誌『歴史街道』2020年8月号の特集1では「『未曾有の危機』に立ち向かった日本人」と題し、日本人がいかにして困難を乗り越えてきたかに迫っている。ではそもそも、日本史においてはどのような危機があったのか。特集の中から、河合敦氏による近世史に関する解説を抜粋して紹介しよう。

 

河合敦(歴史研究家)
昭和40年(1965)、東京都生まれ。第十七回郷土史研究賞優秀賞、第6回NTTトーク大賞優秀賞を受賞。現在、多摩大学客員教授。著書に、『復興の日本史』『日本史は逆から学べ』『外国人がみた日本史』『禁断の江戸史』など多数。

 

じつは「危機」の連続だった江戸時代

平和が続いたとはいえ、江戸時代には社会を揺るがす自然災害がたびたび起こり、そのつど、幕府や大名は対応を迫られました。中には政権交代をもたらすケースもありました。

天明の飢饉で餓死者を出さなかった白河藩主の松平定信は、その手腕を評価されて幕政をにぎり、江戸で打ちこわしが起こると、責任を田沼意次派に負わせて政敵を一掃しています。

嘉永6年(1853)、アメリカのペリー艦隊が来航して開国を迫りましたが、老中阿部正弘らは一年前にオランダ政府から情報を得ていたのに、何の対策も講じませんでした。

このため、対応が後手にまわりました。ただ、日米和親条約を結んだ後、阿部は辞任をちらつかせて権力を集中、安政の改革とよばれる軍備増強を実施。品川沖に台場を急造し、幕府軍の洋式化をすすめ、長崎に海軍伝習所を開いて海軍の創設を企図しました。

しかし、和親条約が結ばれて数ヶ月後の11月4日、安政東海地震が発生し東海道筋は壊滅的な被害をうけます。さらに翌日、今度は紀伊半島から四国を震源とする同じ規模の安政南海地震が起こり、大坂や下田など広い範囲が大津波に襲われたのです。

浜口梧陵
ヤマサ(醤油)当主・浜口梧陵

この地震のとき、ヤマサ(醤油)の当主・浜口梧陵は、庄屋をしている広村(和歌山県)で津波に呑まれました。

運良く助かった梧陵は、すぐに住人に炊き出しをおこない、食糧を調達したり仮設住宅をつくるなど村のために奔走しました。

そして、二度と村が津波の被害にあわないよう、大規模な堤防工事を始めたのです。人夫として村人を雇ったので、村の就労対策にもなりました。費用は、すべてヤマサもちでした。

それからおよそ90年後、再び津波が広村を襲いますが、梧陵の堤防は見事に津波を防いでいます。

このように地域で災害が起こったとき、有力者は住人の救済に尽力しました。それが富豪の社会的役割だと考えられていたからです。コロナ禍で自治体の長が奮闘したり、セレブや大企業が金銭や品物を提供するのは、その名残かもしれません。

さて、それから一年後、今度は江戸で直下型の安政江戸地震が発生。品川の台場は壊滅して首都防衛力は消失。阿部正弘の屋敷も倒壊、一時、幕府の政治機能がマヒしました。

それから数日後、阿部は老中首座の地位を堀田正睦に譲ります。井伊直弼との対立の結果だといいますが、続発した地震が政権崩壊の一因になったのは間違いないでしょう。

翌安政3年(1856)8月、すさまじい台風が江戸に上陸。たいへんな被害をもたらしましたが、さらに二年後、長崎に入港したアメリカ船員からコレラが広まり、人口が密集する江戸で感染爆発をもたらします。

一家全滅の家も少なくなく、葬式で僧侶は多忙を極め、火葬場は棺桶が山積み状態になりました。コレラは文久2年(1862)にも大流行し、麻疹の流行とあいまって、さらに多くの犠牲者が出ました。

このように黒船来航という対外危機に地震、台風、コレラと、不幸な災害が重なり、それが結果として幕府に対する不信感を強め、幕府が倒れる要因の一つとなったのです。

東日本大震災に熊本地震、昨年の台風19号のような近年頻発する巨大台風、新型コロナウイルスによる感染症の拡大……。なんとなく幕末と現在の状況が似ているのが不気味です。



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