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松永久秀は教養の高い知略家だった?…最新研究で見えてくる「梟雄の真相」



2021年01月05日 公開

天野忠幸(天理大学文学部准教授)


「松永久秀の終焉の地とされる信貴山城址(奈良県生駒郡)」

大河ドラマ『麒麟がくる』で吉田鋼太郎さん演じる松永久秀が注目されている。久秀はなぜ、三好長慶に重用されたのか。幕府の重鎮としての地位を、どのように確立したのか。そして、織田信長に対して、反旗を翻した理由は──。最新研究から、その実像に迫る。

天野忠幸(天理大学文学部准教授)PROFILE 昭和51年(1976)、兵庫県生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。専門は日本中世史。著書に『増補版 戦国期三好政権の研究』『三好長慶──諸人之を仰ぐこと北斗泰山』『三好一族と織田信長──「天下」をめぐる覇権戦争』『松永久秀と下剋上─室町の身分秩序を覆す』、編著に『松永久秀──歪められた戦国の"梟雄"の実像』などがある。

 

「梟雄」「平蜘蛛の茶釜」伝説は本当か

松永久秀は戦国時代を代表する梟雄として、よく知られている。将軍足利義輝を討ち、主君三好長慶の嫡子義興を毒殺しただけでなく、東大寺の大仏を焼き払ったという逸話はあまりにも有名である。

その出典は、江戸中期に湯浅常山が記した『常山紀談』で、原型は江戸初期の太田牛一『大かうさまくんきのうち』にまでさかのぼる。

また、織田信長に3度も歯向かうが、2度まで許されたという。そして、ついには信長が欲しがっていた平蜘蛛の茶釜を打ち割り、自害したとされる。この壮絶な最期は錦絵に描かれており、現代人に強烈な印象を与えている。

しかし、これらはそもそも事実なのだろうか。公家の山科言継の日記によると、将軍義輝を討ったのは、長慶の養子義継と久秀の嫡子久通であった。柳生新陰流で名高い柳生氏に残された古文書によると、義興の病が重篤であることを知った久秀はひどく嘆き悲しんでいる。

また、久秀が東大寺に陣取る三好三人衆を攻撃した際に、大仏殿が延焼したのであって、信長のように延暦寺そのものが攻撃目標ではなかった。久秀の自害とともに失われたはずの平蜘蛛も、実際は破損した程度で、修復されて茶会で使用されている。

特に、高校の教科書には「松永久秀が三好長慶より実権を奪った」とする記述があるが、それは江戸後期の頼山陽『日本外史』から引用しているに過ぎず、戦国時代の古文書や古記録で必ずしも裏付けられたものではない。

 

三好長慶による登用

実際の松永久秀はどのような人物であったのか。久秀の前半生は全く不明だが、出身地は摂津の五百住(大阪府高槻市)とする説が有力である。そして、33歳の時に、突如、三好長慶の家臣として現れる。

当時の長慶は阿波の勝瑞(徳島県藍住町)から摂津の越水(兵庫県西宮市)に拠点を移し、細川晴元に仕えていた。

長慶の父元長は晴元や本願寺と対立して殺されたが、その際、多くの阿波譜代の家臣も失っている。また、勝瑞を任せた弟の三好実休にも家臣を付ける必要があり、家臣団の再編成は急務であった。

そこで、長慶は摂津や山城より多くの武士を家臣に取り立てたが、その筆頭が松永久秀・長頼(後に丹波を支配する内藤宗勝)兄弟だったのである。

 

朝廷や幕府、寺社との交渉役

久秀は当初、長慶の命令を摂津の商人や寺社に伝える役目をしていた。そうした中で、徐々に長慶の信頼を得ていったのであろう。長慶が晴元を打ち破った天文18年(1549)の江口の戦い以降、京都の公家や有力寺社から、進物を贈られる有力者となる。

松永兄弟は4万の兵を率いて、相国寺の戦いで晴元を破るなど軍功もあったが、特に久秀は長慶の取次として、朝廷や幕府、寺社、村落との交渉を担当した。

天文22年(1553)に将軍義輝を追放した長慶は、戦国時代で初めて足利将軍家を戴かず京都を支配する政権を樹立する。久秀はその政権を1人で切り盛りしたように思われているが、実際は三好一族の長老である三好長逸と2人が対等、むしろ長逸が少し格上の立場で、長慶への取次を担っていた。

久秀の働きぶりはすさまじく、義輝に味方しようとする近江の六角氏に対して、平然と和約を破り続ける義輝には「御天罰」が下ったと非難し、長慶が「京都御静謐」を担うのだと正当性を主張している。

また、後奈良天皇は長慶と久秀を指名して、禁裏の修築を命じるなど、天皇もその実力を認める存在となった。

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