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源氏と平氏、どちらを推す?~【源平合戦、徹底討論】歴史作家・秋山香乃vs.谷津矢車

2022年01月15日 公開
2022年08月15日 更新

歴史街道編集部

厳島神社と鶴岡八幡宮

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送開始で、にわかに注目が高まっている源平合戦と鎌倉時代。今回は、作家の秋山香乃先生、谷津矢車先生に作家の視点から源氏、平氏それぞれの魅力について語り合っていただきました。

なお、今回の対談にあたっては、「歴史街道」編集部より、秋山先生は平氏派、谷津先生は源氏派として討論していただくよう一方的に(!)リクエスト。

はたして、この討論の行方は?

※2021年12月2日 談。本稿はPHP研究所公式YouTubeの収録内容の一部を編集して掲載しております。
 

秋山「平維盛は、そんなにダメな人じゃない」

編集部 谷津先生、秋山先生のお二人には、歴史街道2022年1月号(特集1「源平合戦の真実」)にご寄稿いただいきました。ありがとうございます。

谷津 私は「平治の乱と源頼朝」というお題をいただいたのですが、そのときにまず思ったことは、「あれ? あんまり史料、残ってなくない?」ということです。そのため、どうしても合戦の描写は「物語」に負う部分が多くなりました。今回のテーマでは、『平治物語』をもとに、頼朝にとっての初陣である平治の乱でおもしろいところを探していきました。平治の乱で敗れ、父・義朝らと東国へ逃れようとしてはぐれるわけですが、そのとき頼朝は、「源太が産衣」という源家重代の鎧を着て、同じく源家重代の刀である「髭切」を持っていました。「髭切」を出せば、ゲームの『刀剣乱舞』をやっている方にも刺さるんじゃないかなと、確信犯的に書いた短編となります(笑)。

秋山 私は平維盛を書いたんですが、ご依頼いただいたときに、「ああ、あの水鳥の人ね」って思ってしまいました。それと、維盛は「光源氏の再来」と言われていたので、「美形、来たー!」とも(笑)。維盛というと、いつもダメな人として描かれてばかりいますが、今回はできるだけ実像に迫りたいと……

維盛は平重盛の子、清盛の孫ですから嫡流なのですが、お母さんの身分が低かったので本来は嫡男になれるような人ではなかったのです。それなのに、お父さんも、兄弟もいろいろやらかしてしまって(笑)。

そんななかで維盛は、その美貌から光源氏と同じ舞をやらされたりして、平家の人気取りに利用されるんですね。ほんとうは武芸をもっと磨きたかったかもしれないのに。ちょっとかわいそうなところがあるので、「この人、そんなにダメな人じゃないんです」といった気持ちをこめて書きました。

編集部 たしかに平維盛というと、富士川の戦いで水鳥の羽音に驚いて、戦わずして逃げ帰ったという逸話の印象から、軟弱というか、あまりよくは描かれませんね。

秋山 そもそも富士川の戦いですが、あれは、誰が総大将になっても平家は勝てなかったと思うんです。このとき、源氏は「朝敵」で、平家は「官軍」ですから、遠征の道々で兵を集めて戦うといったプランをもっていました。でも、全然、兵が集まらない。それどころか、みんな、逃げていってしまう。しかも、源頼朝を追討する戦さなのですが、戦った相手は甲斐源氏の武田でした。武田を撃破したあとに、さらに頼朝軍と戦わないといけないという過酷な戦いで、その意味でも、どのみち負ける戦いだったんです。“水鳥”がなくても、もう撤退しようという話になっていたんですから。

しかも、この年は旱魃で、翌年は飢饉となった大変な時期でした。そんな時に東国への遠征という無謀なことを命じたのは、平清盛の判断ミスですよね。それなのに、なぜか「全て維盛が悪い」「こいつはダメな奴だ」とされてしまったのです。この原稿を読んだ方が、「維盛がかわいそうだ」と感じていただけたら、うれしいですね。
 

秋山「平家のすごいところは四つあります」

平清盛

編集部 源氏と平家にはそれぞれ魅力があるわけですが、今回は秋山先生には平家を、谷津先生には源氏を語っていただきたいのですが―-

秋山 はい、平家のほう行きま~す。源氏が摂関家と結びついてのし上がっていったのに対して、平家は、白河院が摂関家に対抗するために重用されていきました。「自分のお財布代わりになる人があったらいいな」「摂関家の源氏みたいに、武力がある人がいたらいいな」と白河院が思っていたとき、そのニーズをうまく捉えたのが平家です。

平家のいいところは、四つあります。まずは、平家は源氏より顔がいい! 実際には見てないのでわからないのですが、たぶんそう(笑)。これ、大事です。先ほど、維盛の話をしましたが、「光源氏の再来」と言われたその美貌を利用して、平家は広報に使うんです。これ、すごいと思いませんか? 今も企業が、CMで芸能人を使いますが、それと同じことを平家はやっていたのです。朝廷で執り行なわれる芸能関係のイベントでは、維盛に踊らせ、歌わせ、笛を吹かせる。それでみんな、目がハートになる。平家のそういうところは、とても現代的なのです。

二つ目は、平家は一族みんなの仲がいい! 源氏はすぐに一族、兄弟、親子で殺し合い、弱体化していくのですが、平家は仲がいいんです。

平正盛、忠盛、清盛の流れを特に「平家」と呼びますが、「源家」とはあまり言わないですよね。そういう特別な呼び方が生まれるぐらいに繁栄していったのは、私は仲の良さがゆえだと思うのです。確かに武家ですから戦さはしたし、威張り散らしていたイメージもあります。でも、平家の人は基本的に平和主義なのです。人間、争うより仲良しなほうがいいんです。

三つ目は、日宋貿易。やっぱり、銭です、銭は大事です。平家は清盛のお父さんの忠盛の時代に日宋貿易を始めますが、きっかけは、鳥羽院領の管理を平家が任されたことでした。当時、貿易の利益は九州の地元の人たちにダダ漏れ状態だったんです。そこで忠盛は、「鳥羽上皇が、この貿易を自分に一任するって言っています。命令書もあります」と嘘をついて、全部、自分のものにしてしまったんです。

さらに注目すべきは、銭です。当時の日本は貨幣経済ではありません。そんな銭が行き渡っていない国に、貿易によって宋銭を流し込んだんですが、その胴元になったのが平家です。これ、すごいことですよね。当時、日本で一番お金持ちだったのは、間違いなく平家です。お金があると、強くなれますし、戦争もできます。銭の革命を起こした平家は、さすがだと思うんです。

さいごの四つ目は、物流を押さえたこと。大宰府から福原(現在の神戸)までの瀬戸内海航路を、平家はつくるんです。福原に宋船がやってきて貿易を行なう。もちろん九州でもやっていて、博多を発展させる。外国人がたくさん住んで、世界的な港湾都市が出来上がるわけです。それ以前にも平家は、伊勢から東国まで行く航路を築いていますから、日本の物流を押さえてしまう一大事業をやってのけているのです。平家がのし上がっていった過程には、実業のヒントが隠されていると思うので、ガッポ、ガッポ稼ぎたい人は、源氏より平家のやり方を参考にするとよいですよ(笑)
 

谷津「源氏のベンチャー精神がすごい!」

源頼朝

谷津 いきなり源氏の旗色が悪いですけど(笑)。僕はあくまで小説家なので、自分の実感を交えて、お話ししていきますね。

僕もむかしサラリーマンでして、企業勤めが辛かったクチです。だからこそ思うのですが、平家は確かに仲が良い。序列も出来上がっている。でも、その序列に、果たして僕は居場所があるだろうかって考えると、「たぶんねえよな」って思ってしまうんです。なので、むしろ源氏の“ベンチャー起業感”がすごいなと思うんです。

源氏は、秋山先生もおっしゃるとおり、親兄弟で殺し合ってまとまりがぜんぜんない。ただ、それは自由が担保されているとも言えて、要は自分で「儲かるな」「ここを自分の地盤にしよう」と思えば、インスピレーションとノリで版図を広げていった――そんなふうにも取れるんじゃないかと思うんです。その結果、何が起こるかというと、目立つ人が多いんです。強弓で有名な源為朝とか、平家を西国に追い落とした木曽義仲とか、鵺退治で知られる源頼政とか。一人ひとりが思うままに動いて、とてもおもしろいのです。平家コンツェルンだと、清盛の顔色を窺わないと動けない怖さがある気がするんですが、源氏の場合は自分で一旗揚げればいい。この源氏のベンチャー気質が、鎌倉幕府をつくったんじゃないかと思うんです。

鎌倉幕府のスタートはどうだったか。すごく単純化して話をすると……、源頼朝が貴族としての立場を得た。そして貴族として、家の政(まつりごと)を取り仕切ってもらう組織をつくらなければならないから、大江広元らを呼んでくる。それが、鎌倉幕府のスタートなんです。それをどんどん大きくしていって、最終的に一つの企業にしてしまったというようなベンチャーの気風を感じるんです。

だから、頼朝という人も、最終的にはベンチャービジネスの主だったという見方もできて、とても現代的な感じがするんです。ベンチャービジネスから立ち上げた鎌倉幕府という概念が、のちに室町幕府、江戸幕府を生み、千年近く続く政治体制をつくり上げるわけです。

それと、頼朝は地方に目を向けた人です。源氏は中央で平家との抗争に負けて、地方に目を向けざるを得なかったわけですが、結果的に地方武士たちの声を拾い上げていく。そこから、「権門体制」みたいな話になっていくわけです。朝廷という権力があり、寺社という権力があり、そして武士という権力が並び立っているという、中世の体制が出来上がっていくのです。これまで埋もれていた武士たちの声を拾い上げ、それを一つの権力にし、中世、近世へと続く国家体制をつくった源氏は、やはりすごいんです。

秋山 谷津先生、すばらしいです!

谷津 ありがとうございます。

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