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松下幸之助が「経営のコツは教えられない」と語った理由

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)

 

「雨が降れば傘をさす」コツを学ぶためのコツ

幸之助自身がいう経営のコツの基本の基本たるのは「雨が降れば傘をさす」という、非常にシンプルなものである。

当たり前のことを当たり前にする。言葉通り、雨が降っていたら傘は自然にさすものだが、なぜか経営の場となると、土砂降りの中を傘なしで走ったり、晴れているのに傘をさしたりするという。

せっかくのシンプルな表現であっても、結局その本質をつかむには、それぞれがコツを問い、かつ磨いていくしかないのではないか。

幸之助最後の愛弟子の一人とされるぴあ終身相談役の佐久間曻二氏は、創業時のWOWOWが単年度200億円、累積赤字700億円の苦境の中、社長就任にあたり、幸之助が流通改革を断行した事蹟を研究し、これから断行する改革のコツをシナリオ「3+7の物語」として取りまとめ、半年で軌道に乗せ、3年で黒字回復を為し遂げた。

佐久間氏の場合、「経営のコツここなりと活かした価値は一千両」と表現した。上手いものである。

東日本ハウス(現・日本ハウスホールディングス)の創業者・中村功氏は、32歳で一介のサラリーマンから同社を創業したとき、借家住まいの身の上ではまったく信用力がないことを痛感した。そこから彼が始めたのが「5分前精神」の徹底だ。面談の約束は必ず5分前に行く。

ただ、その程度では、信用までは生まれない。そこで中村氏は、約束をする場合は、端数の時間を希望した。土曜の午後と言われたら「午後2時37分に参ります」と言うのだ。怪訝な顔をするお得意に彼は説明する。「自分と社の信用を示すのは、これしかないのです」と。

達人たちは難局においてこそ様々なコツを離れ技のように繰り出す。感性を強化しながら、ひたすらコツコツ現場で学ぶしかない。コツを学ぶコツは結局そこに行き着くような。

 

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