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認知症は50代から始まる?専門医が勧める「思考力の衰えを抑える」3つの習慣

2022年12月05日 公開
2023年02月01日 更新

長谷川嘉哉(医療法人ブレイングループ理事長、認知症専門医)

 

思考の衰えを抑える3つの習慣

この衰えを抑えるためには、とにもかくにも「頻繁にアウトプットする」ことが重要です。

と言っても、そこまで大げさなことをする必要はありません。ぜひ意識してほしいのは「すぐやる、メモする、書き出す」という3つの習慣化です。これらは、より具体的に言うと次のようなことを指します。

・すぐやる……業務上で生じた課題には、できる限りその場で取り組む、済ませる習慣。

・メモする……すぐに対応できない場合も、現在の状況と対応の優先順位をメモに残し、他の業務中にあれこれ考えなくていい状態にしておく習慣。

・書き出す……時間のかかる難題は、頭の中でこね回さず、文章や図などに書き出しながら解決策を考える習慣。

こう聞くと、なんだそんなことか、と思われるかもしれませんが、これらを推奨する理由は大きく分けて2つあります。

1つは、ワーキングメモリの中核機能「外部からの要求に対して適切な記憶・経験を出力する力」を鍛えるため。

脳は使えば使うほど成長します。インプットだけ、考えるだけなどではなく、ぜひその内容を書類やメモに書き出し、時には人と直接話し合うなどして、出力回数を増やしてください。ちなみにワーキングメモリは「覚えたことをその場ですぐ出力する」場合も存分に働いています。

そしてもう1つは「ワーキングメモリのキャパシティを解放するため」です。

実は、人間のワーキングメモリは、どんなに優秀な人でも最大「7つ」までしか物事を処理できないと言われています。タスク管理や処理を脳内でばかり行なっていると、たちまちその枠は満杯になり、予期せぬミスや対応漏れにつながるのです。

つまり、先ほど「3つの習慣」を聞いて「あまりトレーニングっぽくない」と感じた方は大正解。この3つの習慣は、脳を「鍛えるため」のものであると同時に、「余計な負荷を軽減する」ものでもあるのです。

オーバーワークの状態を続けても、仕事の質が下がり、社内で孤立するばかり。鍛えられるものも鍛えられません。加齢による脳の衰えに対抗するには、脳を「効率良く使う」ことも重要なのです。

 

「デンタルケア」が一生使える脳を作る

長谷川嘉哉 老化

また、健康面でも40代・50代で取り入れてほしいことが2つあります。「糖質制限」および「デンタルケア」です。

順番に説明しましょう。まず糖質についてですが、これはもちろん「肥満」と「糖尿病」を防ぐため。

まず、血管に大ダメージを与える糖尿病は、言わずもがな脳の天敵、認知症の明確なリスクファクターです。私は半ば本気で「糖尿病が日本を滅ぼす」のではとヒヤヒヤしています。

また、肥満についても「BMI(=体重÷身長の二乗)30以上」の人は、そうでない人よりも身体の衰えが約3年ぶん余計に進んでいる、という研究があります。もちろん過度な痩せすぎもNGですが、そちらの対策は現役世代の皆さんには、詳しく紹介しなくてもいいですよね(笑)。

とはいえ、現役のうちは、仕事のつきあいで飲みに行かねばならないこともあるでしょう。それに、過度な節制もストレスのもと。

そこで私が推奨しているのが、「一日一食だけ糖質制限」という方法です。朝食の惣菜パンを卵焼きとウインナーにしたり、昼食の白米をサラダにしたりなどの工夫を健康なうちから始めておくことで、生涯認知症と無縁な人生が近づきます。

次に「デンタルケア」に関してですが、これはとにかく、歯を失う大きな原因である「歯周病」のケアが大切。東北大学の調査によれば、70歳以上の「脳が健康な人」には歯が平均14.9本残っていたのに対して、「認知症疑いあり」の人ではたった9.4本だったとか。

「噛む」ことは脳への血流を増やします。生活の質を維持するという観点ではもちろん、脳のことを考えても、歯を失うわけにはいかないのです。

ぜひ現役のうちから定期検診に通い、フロスなどを使った口腔ケアに努めてください。歯周病は、インスリンの働きを阻害し糖尿病リスクを高めるという報告もあります。まさに「歯を守る」ことこそ「健康を守る」ための第一歩なのです。

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