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決裁を進めてくれない上司にモヤモヤ...「言えずに我慢」がなくなる3つのコツ

2023年03月26日 公開
2023年03月29日 更新

大串亜由美((株)グローバリンク代表取締役)

 

建設的な「NO」の渡し方

「言えない」の中でも特に言いにくいのが、相手の要求に対する「NO」だと思います。そこで、2つ目の重要ポイントとなるのが、建設的な「NO」を言うことです。

ただでさえ言いにくい「NO」ですが、最も難易度が高いのはクライアントの無理難題に対する「NO」でしょう。言って相手を怒らせてしまえば、最悪取引停止になる恐れもあります。

かといって、「なんとか頑張ってみます」と期待を持たせておいて、「やっぱり無理でした」では相手も困ります。本当に無理なことなら、少しでも早く「NO」を渡してあげることが相手にとってのメリットです。

ではどう伝えればいいのか。あなたの「NO」をきちんと受け止めてもらうには、2つのステップをきちんと踏んで、伝えることが大切です。

(1) 「YES」を渡すための最大限の努力をする。

(2) 相手のデメリットを最小限にしてあげるという目線で、建設的な「NO」を伝える。

「YES」を渡すための最大限の努力とは、相手の話をよく聞いて、要求の「WHAT」と「WHY」をしっかり確認することです。

例えば、値引き要求なら、「何を、いくら下げてほしいのか(=WHAT)」と、「なぜ値引きが必要なのか(=WHY)」。

納期を早めてほしいというリクエストなら、「何を、いつまでに仕上げてほしいのか(=WHAT)」と、「なぜ早める必要があるか(=WHY)」。

相手の要求をパーツ化し、優先順位を確認します。よくよく話を聞けば、相手の要求のWHATに対しては「NO」でも、WHYをクリアしてあげる「YES」を渡せる可能性もあります。

例えば、新商品を10%値引きしてほしいのは、今期のコストを全体で5%下げたいからかもしれません。ならば、「この商品は値引きできませんが、他の商品で値引きができないか確認してみます」。

あるいは、10%の値引きで浮いた予算を、販促に使いたいのかも。ならば、「値引きはできませんが、販促のお手伝いはできると思います」。

クライアントの要求のWHATに応えられない理由をたくさん並べるより、WHYに応える代案を一つでも提示したほうが、相手も嬉しいはず。相手に「WIN」を渡す努力をしていることがわかります。

ただ、どんなに頑張っても相手の要求に応えることができないときもあります。そんなときは、軽々しく「YES」を渡すことの"相手にとってのデメリット"を丁寧に伝えます。

「すでに最短で納入できるようスケジュールを組んでいます。さらに納期を早めるとなると十分な品質チェックができません。納品後にトラブルが起きてしまっては御社のお客様に迷惑をかけることになるので、お勧めできません」

このような相手メリットの建設的な「NO」なら、きっと言えるはずです。

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【マイナスなことを伝える3つのコツ】

(1)「Iメッセージ」で伝える

×「そんなイベント、日程的に無理に決まってる」
○「イベントを成功させるには、私は無理のない日程で進められるよう再調整が必要だと思う」

反対意見を述べるときのゴールは、相手をたたきのめすことではなく、自分の仕事を前に進めること。そこで、断定するのではなく、「私は~」という「I」で始まるメッセージ(Iメッセージ)で伝えることが大切です。相手が気持ちよく「YES」を渡せるように、目線を変え、ひと手間かけて伝えましょう。

(2)事実と感情をセットで伝える

×「キミの態度、困りものだよね」
○「お客様に失礼な態度をとられると、とても困ります」

感情を伝えるのはOK。ただし、マイナスの感情を相手に投げつけるだけでは、建設的な展開は期待できません。上記の例のように、「事実と感情をセットで伝える」ことが重要です。

(3)叱るときは「AID」で伝える

○「今期分の決算書、2日遅れたよね(行動)。経理への提出が遅れて、最終チェックに十分な時間がとれなかったと言われました(影響)。忙しいと思うけど、仕事の進め方や優先順位、もう一度確認してみない?(成長)」

部下を叱るときは、「A」=行動(Action)、「I」=影響(Impact)、「D」=成長(Development)の3つをセットで伝えることがポイント。事実で具体的に指摘し、その影響を伝え、さらにこの経験をどう発展・改善していけばよいか、本人が自分で動けるよう"道筋"を示します。 
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自分の気持ちをスムーズに伝えるトレーニング

3つ目のポイントは、無意識のうちに「感情」を抑え込まないことです。

自分の気持ちをスムーズに伝えられないという人の中には、そもそも自分の気持ちに気づいていない人が結構います。「仕事だから感情を出しちゃいけない」などと思い、自分の感情を封印していたり、置き去りにしていたり、気づかないフリをしていたりするのです。

しかし、このままでは相手に何か伝えることなどできませんし、知らず知らずのうちに不満やストレスが溜まっていくばかり。どこかで感情を爆発させてしまい、周りをびっくりさせてしまうことになりかねません。

そこで最後に、「自分の気持ちをスムーズに伝えるトレーニング」を紹介しておきましょう。以下の3ステップで行ないます

【STEP1】まずは、自分に向かって言う

まず口に出さなくてもいいので、自分に向かって、こまめに自分の気持ちを言葉にしてみましょう。「あ、私、今すごくビックリした」とか、「喜んでもらえて、ちょっと嬉しい気分」とか。自分の素直な気持ちを、まずは自分自身が認めてあげる――。これが第1ステップです。

【STEP2】ごく簡単な言葉で表現してみる

自分の気持ちにちゃんと気づけるようになったら、それが相手にも伝わるよう、言葉にしてみましょう。ごく簡単な言葉で、まずはひと言で。自分の気持ちやイメージに一番近い言葉を選ぶ練習です。例えば、何かをやってくれて「すごく嬉しかったです」「助かりました」、困ったことに対して「ガッカリです」「ビックリしました」。

ここに挙げた語彙を、自分の気持ちに照らして増やしたり、入れ替えたり、アレンジしてみましょう。語彙が増えれば、例えば「ビックリしました」も、その度合いによって言葉を使い分けることができます。

【STEP3】感想の文章から、依頼の文章へ

嬉しいことを「嬉しい」と、口に出して伝えるのが第2のステップ。でも、嬉しいことは、もっと体験したいはず。逆に、ガッカリな体験は誰だって減らしたいもの。

次は、嬉しいことを"してもらう"ための依頼、ガッカリなことを"やめてもらう"ための依頼の言葉を考えて、相手に伝えてみましょう。

感想の文章を、依頼の文章に転化して、動きのあるメッセージにするのが第3のステップです。

1~3のステップを順に踏んでいけば、自分の気持ちを自分の言葉で言えるように、きっとなるはずです。

 

著者紹介

大串亜由美(おおくし・あゆみ)

(株)グローバリンク代表取締役

日本ヒューレット・パッカード㈱の人事部にて、女性活性化プロジェクトリーダー、海外派遣担当マネジャー、人事コミュニケーション・マネジャーなどを歴任。その後、米国本社勤務、コンサルティング会社勤務を経て、1998年に㈱グローバリンクを設立。「国際的規模での人材活用・人材育成」をキーワードに、ビジネスコミュニケーション全般の企業・団体研修、人材育成コンサルティング業務を手がける。年間数多くの企業研修を手がけ、「研修女王」の異名を持つ。

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