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協賛企業を探し、自ら200社訪問...亀田誠治氏が「無料の音楽祭」に懸ける情熱

2023年05月17日 公開

亀田誠治(音楽プロデューサー)

 

200社を訪問して自分の言葉で協賛を募る

――それは悔しいですね。それで代理店の撤退で第1回開催はどうなったのですか?

【亀田】幻です。なかったことになりました。ですが、翌年の無料開催に向けて、僕と志を同じくする制作チームが一丸となって、もう一度仕切り直すことにしました。

「亀田さん、他の人を頼るんじゃなくて、自分の言葉で企業協賛をお願いしに行くべきです」とアドバイスされて、自分たちで企画書も作りました。

僕は大学卒業と同時にプロのミュージシャンになってしまったので、就職活動もしたことがありません。ネクタイも一人では結べない(笑)。

そんな僕が、学生時代の先輩や音楽業界の仲間、今まで仕事で出会った大切な仲間からの紹介で200社くらい訪問して、「音楽への入り口となる音楽フェスを、東京のど真ん中の日比谷公園で開催するので協賛してくれませんか」と自分の言葉で説明しました。

SDGsという言葉は広がりつつありましたが、企業の社長さんたちも自社がどうやって社会貢献にかかわっていこうか思案されていたようです。「日比谷音楽祭を応援すれば、社会に還元することになりますか?」「その通りです!」という会話を繰り返すうちに、前年はどこも手を挙げなかったのに、2019年は約1億円の協賛金を集めることができました。

――すごい! 扉が開いたんですね。

【亀田】はい。企業協賛の他に、行政からの助成金、一般の方からのクラウドファンディングの三本柱で日比谷音楽祭は成り立っています。

この音楽祭を一般の方に届けたいのであれば、一般の方からどれだけ応援してもらえるかが大事だと思って、クラウドファンディングを立ち上げることにしたんです。

無料開催といっても、アーティストや運営スタッフにはギャラをお支払いしています。皆さんからいただいたお金はそういうところにも使われています。

また、一般のお客さんには、無料で気軽に音楽に触れてもらったその先で、新たに見つけた推しのアーティストの音楽を買ったり、会場内で行なわれる様々な楽器体験やワークショップを通して興味を持った楽器を始めたりして、実際にお金を使っていただきたい。それが「文化を根づかせていく」ということだと思うので。

この思想が伝わっていけば、僕がセントラルパークで見た景色を日本でも実現できると信じて、2019年に第1回を開催したところ、2日間で10万人ものお客さんが来てくださいました。

 

「全亀田」を投入して全世代が楽しめる音楽祭を

――今年の日比谷音楽祭の見どころはどのようなところでしょうか。

【亀田】2020年からのコロナ禍で、リアル体験が奪われてしまった人たちがたくさんいます。特に若い世代は、学園祭や部活がなくなったり、リアルで人に会って言葉を交わしたり、コンサートやイベントに行ったり、人間性を形成する大切な経験を奪われてしまいました。

そんな様々な制限をかけられた人たちに、「リアルってこんなに素敵だよ」と伝えたい。もちろんオンライン生配信も行ないますが、日比谷公園でたくさんの喜びや感動が生まれる仕組みをたくさん盛り込む予定です。

今年の見どころの1つとして、若い世代にも楽しんでもらえるよう、今までよりZ世代のアーティストを意識した出演ラインナップになっています。いわゆるコロナ禍でSNS発信により大ブレークしたアーティストたちです。

僕がいいなと思う人たちに直接SNSのDMで連絡を取ったりしながら、出演をオファーしました。着慣れないスーツを着て、企業協賛の扉を一つひとつ叩いたときと同じように(笑)。

本当にありがたいことに、この5年間で日比谷音楽祭が認知され始めていて、出演を望んでくださるアーティストが増えています。木村カエラさんに至っては、去年、友達夫婦をランチに誘ったら、「日比谷音楽祭に行くからごめんね」と断られたらしく、「私も出たいと思ってた!」と言ってくれました。

あとは石川さゆりさん、KREVAさんなど日比谷音楽祭の常連アーティストの方々にもお声がけしていますし、まだ発表前なので名前は伏せますが、「うわ、この人も!」という方も登場しますよ。この5年ほどずっとお声がけして、今年初めて出演が叶ったアーティストもいます。

とにかく僕のすべて、「全亀田を投入」して、スタッフが全力で創り上げてくれている音楽祭での生の感動を、ぜひ多くの人に届けたいと思っています。

 

■日比谷音楽祭(https://hibiyamusicfes.jp/2023/
~新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭~
・2023年6月3日(土)-4日(日)
・日比谷公園・サテライト会場 東京ミッドタウン日比谷
・入場無料
・出演アーティスト例:The Music Park Orchestra(日比谷音楽祭スペシャルバンド)、石川さゆり、WONK 他

■日比谷音楽祭クラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/HMF2023
■野音100周年(https://yaon100.com/

【亀田誠治(かめだ・せいじ)】
1964年生まれ。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆりなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。07年、15年、日本レコード大賞で編曲賞、21年には日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。近年は舞台音楽も手がけ、ブロードウェイミュージカル「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを務めている。

(『THE21』2023年5月号に掲載された「目の前にある音楽に貢献するために、常に『全亀田』を投入しています」より)

 

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