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ギリシャ人は「日本人並みに勤勉」!?

2015年07月03日 公開
2015年07月03日 更新

福田直子(コラムニスト)

日本とギリシャは実は似ている

債務問題に揺れるギリシャ。その原因として「ギリシャ人は怠惰だ」ということがよく言われる。だが、ドイツを拠点に活動するジャーナリストの福田直子氏は、「実はギリシャ人は『勤勉』だ」と指摘する。意外にも日本人と共通点の多いギリシャ人の「本当の姿」について寄稿してもらった。

 

実はヨーロッパで最も労働時間が長いギリシャ

今、まさに正念場を迎えているギリシャ危機。ギリシャ人からすれば、まるで善人のギリシャ人を冷血なドイツ人がいじめているような構図なのだろうか。一方、ドイツ人からみれば、ギリシャの言い分はいかにも都合がよすぎる。

ギリシャが発端の「ユーロ危機」では、しばしばギリシャ人と債権者の代表、ドイツ人が対比されるが、ドイツ人にしてみれば、ギリシャ人は怠惰にさえ見える。ギリシャ人は実際、どういう働き方をしているのだろうか。

統計調査で知られるピュー研究所の調べによれば、英・仏・独・スペイン・伊・ギリシャなど、欧州の8カ国の人々が一番勤勉と思っているのは、ギリシャ人を除き、すべて「ドイツ」だという。

では、ギリシャ人はほんとうに怠惰なのか。否。驚いたことにギリシャ人は自分たちがヨーロッパで一番勤勉であると思っている。意外だが、これは案外、真実なのかもしれない。

というのも実は、統計上、ヨーロッパで一番労働時間が長いのはギリシャなのだ。年間の総労働時間は2017時間と欧州諸国のどの国よりも多い。ギリシャ人の一週間の平均労働時間は42時間と長く、EUの平均労働時間は37.5時間、ドイツ人の週の労働時間は35.3時間だ。「勤勉」といわれるドイツ人はギリシャ人に比べ、労働時間が40%も短い。そしてギリシャ人はドイツ人のように長い休暇を取らない。

実際に現地に行ってみると、ギリシャ人は確かに勤勉に見える。一般にサラリーマンは朝が早く、7時に会社に着くとお昼は抜きか、軽い軽食をオフィスでほおばり、午後3時には帰宅。きちんと昼食をとったあとは暑いこともあって休息。夕飯は遅く、9時過ぎか10時頃となる。暑い時期が長いギリシャは午後に休んで夜を楽しむ傾向にある。

ギリシャでは自営業が多く、町は夜もにぎやかだ。お店の営業時間が長いこともギリシャ人の平均労働時間を長くしているのだろう。ドイツでは閉店法があるため、デパートは遅くても夜の8時には閉まり、コンビニなどはまったくない。どこも9時を過ぎるとシーンとなり、次の日に備えて早めに就寝、というドイツの生活スタイルはギリシャと大違いである。

 

「別世界」で暮らす富裕層

ところで、ギリシャ問題は、富裕層と一般市民の格差問題であると解釈する経済評論家もいる。

造船業をはじめとするギリシャの富裕層はとてつもなくリッチで、山の頂上や私有地の島など、世間とは隔絶された場所に住んでいることが多い。移動は車だと渋滞するということで、ヘリコプターや豪華船であったりするが、彼らは財産をすべてギリシャ国外に持ち出している。富裕層はとても愛国的だが、税金は払わないし、苦境に陥った中流ギリシャ人への助け舟など出さない。

たとえば、アテネによく出張していた知人があるとき、ギリシャ人の取引相手にヨットに乗せてもらった。豪華船には常駐のスタッフもいて、100人あまりのパーティも船上で楽しむ。筆者の知るギリシャ人もみなパーティが大好きだ。ちなみに船の値段を聞いてみたら、「中古で2億ユーロぐらいかな」と臆面なく答えたそうだ。

自宅のプールも富裕税のうちに入るらしいが、税申告している人はほとんどいなかった。しかし、上空から衛星写真で撮ってみたところ、何万軒もの世帯がプールを持っていたとか。不動産登記もいいかげんというから、ドイツとは大違いである。

富裕層にきちんと課税し、ドイツより高い水準の年金制度を改革し、公務員を減らせば債務帳消しはすぐできるというのに、ギリシャの政治家たちは手が出せない。政治家たちは一部の特権を(自分たちの分も含めて)剥奪したくない。

しかし、一方で「EUの緊縮財政を許せない」と言う。むろん、ギリシャを借金漬けにした銀行はまったく責任をとらないばかりか、リーマンショック後の大量の公的資金投入で焼け太りをしている。

 

長時間労働、オリンピック……なぜか日本と重なる姿

ところで、筆者は昨年、アテネで合唱団のコンサートに行ったとき、道端で物乞いをする人たちを見た。どう見ても大学教授かサラリーマン風の外見のきちんとした身なりの男性が、アメリカ大使館の前で申し訳なさそうにすわっていた。2ユーロ差し出したところ、満面の笑みを浮かべ、「エファリストー(ありがとう)」と言われ、小銭しかあげなかった自分がちょっと恥ずかしくなった。

街は「売ります、貸します」のサインがところどころに見られ、そう遠い過去ではなかったオリンピックの熱狂が一体、どこへ行ったのかという沈滞ムードだった。

過大な債務、長時間労働、政治家の二枚舌、そしてオリンピック開催。ギリシャをよく知る日本人には、「ギリシャと日本はとても似ている」と指摘する人もいる。さらに言えば、ギリシャ人は情に厚く、親切な人が多い。ビジネスで短期間滞在しただけでもギリシャ人は家に招待してくれたりする。普段のギリシャの「おもてなし」は日本人以上だと思う。この時期にあっては、それはのぞめないだろうけれど。

著者紹介

福田直子(ふくだ・なおこ)

コラムニスト

東京生まれ。出版社にて雑誌編集者を経て、フリーに。現在、ドイツ、ミュンヘン在住。著書に『ドイツの犬はなぜ吠えない?』(平凡社)、『休むために働くドイツ人、働くために休む日本人』(PHP研究所)、『日本はどう報じられているか』(共著、新潮社)など。現在、戦争記念碑に関する本を執筆中。

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