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朴訥、親切、愉快。でも仕事をすると厄介です(ロシア)

2015年12月07日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(4)石澤義裕(デザイナー)

ロシアの辞書には、いまだサービスの文字はなし

 

いまだ「サービス」を理解していないロシア人?

夫婦で世界一周に出て、11年目。軽自動車でユーラシア大陸を横断中です。シベリアで猛吹雪に襲われましたが、夏タイヤ。遅まきながら、チェーンを巻けないことに気付きました。緊急度に比例して役に立たない旦那です。旅は人知れず、サバイバル編に突入!

戦時中は多くの秘密都市やら閉鎖都市を抱え、ペレストロイカで赤裸々に情報を公開したら、立ち行かなくなったソ連、というかロシア。西へ爆走しております。

社会主義を捨てて市場経済に身を晒し、四半世紀が過ぎました。

そろそろ金のために悪魔に魂を売っている頃かと思いきや、まだまだ商売の機微や、侘び寂びがわからないようです。職業の貴賎を越えた官僚レベルの横柄な店員は、そこかしこにいます。ロシアの辞書には、いまだサービスという文字はないのです。

一流半程度のホテルに、部屋はありませんかと訊くまでもなく、部屋はない!と断られることも珍しくありません。片言のロシア語を披露する暇もなく、問答無用の拒絶です。ボクらがどんなに最高の笑顔や、卑屈な懇願や、恭順な態度を見せても、彼らは決して聞く耳を持ちません。ニュートリノほどの対話の姿勢すら見せず、鉄のカーテンを下ろします。

しかしボクらは知っているのです。部屋は確実にあります。英語を話せないから、断っているのです。彼ら的には、ホテルから給料をもらっていてもそれはそれ。会社や顧客の利益のために働いているわけではない、という明確な職業倫理を見せつけてくれます。

ロシア語を話せない人間は、顧客にあらず。「とっとと帰っとくれ!」というキリル文字が、立体文字となって胸に刺さります。
ちなみに部屋がないと断られても、心配ありません。極まれに英語を話せるロシア人がいるので、彼らに電話してもらえば、何の問題もなく予約できます。先ほどどんなに重い鉄のカーテンを下ろしたレセプションでも、普通にチェックインしてくれます。


ロシアと言えば、カニ

 

企業の精神はトイレに宿るというが……

地の利を活かした街道のカフェは、おもてなしと笑顔とサービスに欠けた商売で、残念ながら繁盛しています。
よくトイレに企業の精神は宿ると言われますが、配慮の欠片も感じられないボットン式です。
掘建小屋の床に、穴があるだけ。楕円形ならまずヨシ。まん丸だとどちらを向いたらいいのか、判断に苦しみます。時にはドアがなく、時には穴が二個並び、目眩がします。ほぼ100%トイレに灯りがないのは、組合の談合なのかもしれません。
たとえ殿様商売でも料理に愛があれば許せるのですが、電子レンジで温めるだけです。ちなみにソ連は、崩壊するまで電子レンジが禁止されていました。西側による核攻撃の一種だと、勘違いしていたようです。

先日、カフェで悲しい出来事を目撃しました。
トラックの運転手が、テーブルに放置された前の客の食べ残しを指差し、ウェートレスに片付けてくれと頼みました。
ウェートレスは冷たく一瞥し、返事もせず厨房へ消えました。その男性が食事を終えてもまだ、お皿は残ったまま放置。西側陣営としては、泣くに泣けない物語です。

サハリンから旅すること、10,000キロ。
多くのロシア人と出会いました。
彼らは、朴訥で親切です。酔っぱらえば迷惑なほど愉快です。煙草やウォッカをススメてくれ、ゆで卵や野菜をくれます。頼みもしないのに、車で町を案内してくれます。
中国との国境に近い基地では、日本人の旅人に得意のミサイルを見せてやってくれと頼み込んでくれたりします。断られましたが。
仕事となれば人が変わるのが、厄介なのです。

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著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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