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「藻谷浩介と行く食の福島」講演ツアー同行取材ルポ 前編

2016年01月09日 公開

藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)

 

[JAあいづ 40号農業倉庫]
倉庫の中で進められるコメの全量全袋検査

 福島県農業総合センターをあとにして、バスは磐越自動車道を西へと向かう。

「磐越道は、田中真紀子さんの地盤の新潟と、その夫である田中直紀さんの地盤のいわきを結んでいるので、建設当時は田中家の道と揶揄されたりしましたが、重要な物流道路です。関西方面から東北地方へ行くには、東京をまわるより、磐越道と北陸道を使ったほうが距離が短いのです」(藻谷氏)

磐越道から磐梯山を望む

 

 東北地方を太平洋側と日本海側に分ける大分水嶺・奥羽山脈を貫くトンネルを抜けて、猪苗代湖北岸の猪苗代町に入る。右手に磐梯山が雄大な姿を現わし、シベリアから来た白鳥が群れを成して飛ぶのが見える。左手には鏡のような猪苗代湖の湖面が望める。

「猪苗代湖から磐梯山にかけての風景は北海道と同じスケールです。バブル期には高層のリゾート施設が流行ったのですが、見てのとおり、ここにはほとんどありません。当時の佐藤栄佐久知事が高さ規制をして景観を守ったのです」(藻谷氏)

 磐越道を下りて、猪苗代湖北岸沿いを走る国道49号線へ。道路沿いのガソリンスタンドの看板は茶色に塗られている。看板の色も規制されているのだ。

 野口英世の生家の脇を通り抜け、「猪苗代農業協同組合 低温農業倉庫」と書かれた建物の前でバスを降りる。猪苗代農業協同組合は他の農協と合併し、現在は「あいづ農業協同組合」(JAあいづ)となっている。

倉庫の前に積まれた大量のコメ袋

 

 倉庫内にあるのは、2015年の秋に収穫されたコメだ。大量のコメ袋が積み上げられている。福島県産のコメは全量全袋が放射線検査されており、ここはその現場の一つなのだ。島津製作所製の『FOODSEYE』という機械が1台設置され、30kgのコメ袋を次々と検査していた。

『FOODSEYE』は、コメの全量全袋検査のために、原発事故後に開発された機械。ゲルマニウム半導体検出器のように時間をかけて正確な放射線量を測定するのではなく、1袋10秒ほどで「1kg当たり100ベクレルを確実に下回っているか」を判定するスクリーニングのためのものだ。同様の検査機械を富士電機、三菱重工メカトロシステムズ、日立造船、キャンベラジャパンも開発し、検査に使われている。福島県会津農林事務所 農業振興普及部 地域農業推進課課長の田口明広氏によると、猪苗代町には4台、福島県全体では170カ所に200台あるそうだ。

1袋ずつ、すべてのコメ袋を機械に通して放射線検査を行なう

 

「今は県内の農地の除染は警戒区域を除いてほとんど完了していますし、土100g当たり25mg以上の塩化カリウムを入れる吸収抑制対策も取っています。2012~14年の3年間、福島県全体で、99%以上のコメが測定下限値の1kg当たり25ベクレル未満でした。会津地方では、自治体による検査に加えて、生産者による自主検査も行なっています。

 2014年産で基準値を超える放射線が検出されたのは県全体で2点ありました。いずれも自家消費用で、吸収抑制対策をしていなかったのが原因だとわかっています。

 今年は、現時点で全体の半分ほどの量の検査を終えており、基準値を超えているものは見つかっていません。県全体で3袋がゲルマニウム半導体検出器による詳細検査にまわされましたが、いずれも基準値を超えていませんでした」(田口氏)

 コメの全量全袋検査にかかる費用も、東京電力による賠償の対象だということだ。

 倉庫での見学を終えて、昼食を摂る「レイクサイド磐光」という猪苗代湖東岸のホテルに向かう。その車中、猪苗代湖を水源とする安積疎水や郡山の開拓の歴史について、藻谷氏が解説した。

「安積疎水が開通したのは1882年。久留米や鳥取など、日本各地から集まった元武士たちが入植して工事が行われました。北海道の開拓が本格化したのと同じ頃ですね。今もそのときにやって来た人たちの子孫が多く暮らしています。

 このすぐ近くを走っているJR磐越西線は1914年に全通しました。東京と新潟をつなぐ鉄道は、それまで碓氷峠や妙高高原という難所を通る線しかありませんでした。ですから、重い貨車が走るには磐越西線が便利で、1931年に上越線が全通するまで、物流の幹線となっていたのです」(藻谷氏)

 レイクサイド磐光の目の前に広がる猪苗代湖の湖岸は志田浜という砂浜になっている。夏には湖水浴に多くの人が訪れるそうだ。湖の中は国立公園になっており、人工物を作ることができない。猪苗代湖の美しさが保たれている要因の一つだ。

志田浜から猪苗代湖を望む

 

 美しさのもう一つの要因は水質にある。酸川という酸性の川が流れ込んでいるため、湖の中に生物が少なく、透明度が高いのだ。ただ、酸川上流で操業していた硫黄鉱山が閉山したことで酸性がかつてほどは強くなくなり、以前より富栄養化しているということだ。

後編へ続く》

《写真撮影:まるやゆういち》

 



著者紹介

藻谷浩介(もたに・こうすけ)

〔株〕日本総合研究所主席研究員

1964年、山口県生まれ。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学留学などを経て、現職。2000年頃より地域振興について研究・調査・講演を行なう。10年に刊行した『デフレの正体』(角川新書)がベストセラーとなる。13年に刊行した『里山資本主義』(NHK広島取材班との共著/角川新書)で新書大賞2014を受賞。14年、対話集『しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社)を刊行。

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