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原発事故によって避難を余儀なくされた人たちの「今」 〈1〉

2016年02月10日 公開
2023年01月12日 更新

藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)

「藻谷浩介と行く飯舘・南相馬」講演ツアー同行取材ルポ

 

 NPO法人ComPus地域経営支援ネットワークは、同NPO法人の理事長であり、『デフレの正体』や『里山資本主義』(共著)などの著書がある藻谷浩介氏による講演バスツアーを主催している。東日本大震災の被災地を訪れ、その現状を見るというものだ。そのツアーの第4回として、福島第一原発の事故によって避難を余儀なくされた人たちを2015年11月30日に訪ねた様子をお伝えする。

 

[浪江町二本松事務所]
放射能汚染を最も強く受けた町

 今回の講演ツアーでは、JR郡山駅前に集合してバスに乗り、二本松市、飯舘村、南相馬市を訪れる。福島第一原発の事故によって避難指示を受けた地域や、その周辺だ。46名の参加者が乗ったバスが出発すると、車中で藻谷氏が挨拶をした。

「今回、訪れる場所が、被災地の中でも最も多くの人たちに見てほしいところです。もちろん、前回、農協でのコメの全量全袋検査を見たのは本当に貴重な経験でしたし、前々回、気仙沼で聞いた話は一生忘れることがないだろうもので、毎回、思うところがあるのですが。

 幹線道路沿い以外はいまだに立ち入りが許されていない浪江町。役場は二本松に移されていると聞いていますが、どんな感じで仕事をしておられるのか、私も知りません。豊かだった農地が雑草に覆われてしまった飯舘村も、近づく帰還に向けて少し違う様相を見せているだろうと思います。そして南相馬。複雑な事情を抱えた市で、全体像は住んでみないとわかりませんが、どういう人が市長をしていて、周りの人たちはどんな空気感なのか。バラバラになっていく地域を統合するために、市長以下の人たちは、どういう想いで、何をしているのか。この5年間、ひたすら泳ぎ続けている、という感じだと思います。ぜひ、今日のツアーを通じて、ご自身で確認していただきたいと思います」(藻谷氏)

 バスは安達太良山を左手に見ながら国道4号線を北上する。阿武隈川沿いにゆっくりと下ってゆく道だ。郡山市から本宮市、大玉村を経て、二本松市に入る。最初に向かうのは、二本松市の平石高田第2工業団地内にある浪江町二本松事務所。浪江町は全域が避難指示区域となっているため、ここを仮設の町役場としている。

「浪江は非常に運の悪かった町です。町内に原発が立地しているわけではなく、原発関係の交付金も少なかったのに、事故当時の風向きの関係で、強い放射能汚染を、とくに内陸のほうが受けてしまった。海側は日中の立ち入りができるようになりましたが、奥にある盆地にはいまだに立ち入れません。豊かな農業地帯ですので、地元に寄せる住民の想いは強いのですが。深く心が傷ついている町です」(藻谷氏)

 


浪江町役場二本松事務所に入るツアー参加者

 

 浪江町二本松事務所の前に着いたバスから降りたツアー参加者たちが建物内へと入る。玄関ホールで、町長の馬場有氏が浪江町の現状について話した。馬場氏は15日前(2015年11月15日)の町長選挙で3選を果たしたばかりだ。

 


浪江町役場二本松事務所の玄関ホールで話す藻谷氏(左)と馬場有町長

 

「2011年3月11日から今日で1,726日目を迎えます。本当に長い時間が経ちましたが、町としては、今年(2015年)はようやく復旧のスタートラインにつけた年なのかなという気がしています。農地に打ち上げられた漁船がそのまま残っていたのを撤去し、セイタカアワダチソウなどの雑草も除くことができました。これから、もっと目に見える形で町が復旧、復興する姿をお見せして、支援していただいたみなさんに恩返しができればと思っています。

 

著者紹介

藻谷浩介(もたに・こうすけ)

〔株〕日本総合研究所主席研究員

1964年、山口県生まれ。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学留学などを経て、現職。2000年頃より地域振興について研究・調査・講演を行なう。10年に刊行した『デフレの正体』(角川新書)がベストセラーとなる。13年に刊行した『里山資本主義』(NHK広島取材班との共著/角川新書)で新書大賞2014を受賞。14年、対話集『しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社)を刊行。

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