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「本の力」を最大限に引き出す4つの習慣

2016年02月25日 公開
2023年05月16日 更新

藤井孝一(アンテレクト代表取締役/経営コンサルタント)

 

いい本と出合う3つのチェックポイント

 多くの本と出合い、読んでいくと、自分に合う本が見分けられる嗅覚が身についてきます。それを「本に呼ばれた」などと言ったりしますが、手に取ったとき、なんとなく惹かれる本との出合いは、みなさん経験があるのではないでしょうか。それでも確信が得られないときの判断基準として「いい本を選ぶコツ」をお教えしましょう。

 まず、書店に行ったら、ざっと棚を見て回ります。気になるタイトルや表紙の本を見つけたら、手に取りパラパラと本をめくってみます。チェックポイントは3つあります。

 まず「目次」です。目次を読めば、その本の全体像がわかります。章ごとのテーマが明確で、1章は問題提起、2章は問題解決のノウハウなどと、わかりやすい流れができている本は読みやすい本です。中にはタイトルと目次が異なるケースがあります。これは内容が薄かったり、論理が破綻していることが多いので、タイトルが秀逸でも、得られるものはいま一つです。

 次に見るのが「著者のプロフィール」です。たとえば、経営コンサルタントが書いた、サラリーマンのための仕事術の本。しかし、プロフィールを見ると、会社勤めの経験がない。こんな場合、本の内容が理想論や空論になりがちです。経歴が高学歴やエリートだったら信用できるというのではなく、要は著者の経歴や代表作が、本の内容に直結しているかどうかが重要なのです。

 そして最後の決め手となるのが、「まえがき」です。まえがきは著者が最も力を入れている部分で、本のエッセンスが凝縮されています。まえがきは、最初の3行が命。そこでピンとこなければ、そのあと読み続けても、その後もピンとこないものです。

 最近は、紙の本か、電子書籍かという質問もよく聞かれます。私は、ビジネス書は紙の本で読みます。なぜなら、紙の本は感触や重さ、ページをめくる感覚が五感を刺激して記憶に残りやすくなるからです。電子書籍は、ネットニュースやメールと同じく、書かれている情報をただひたすらインプットする感覚に近い媒体。さらに、メモを書き込んだり、付箋を貼ったりするのも、紙の本のほうがスムーズで自由です。

 ただし、電子書籍は紙の本にはないメリットが数多くあります。まず一番に、場所を取らず、持ち運びがしやすいこと。出張や旅行先で読書をするなら、断然、電子書籍が便利です。

 ちなみに私は、読み終えた紙の本はスキャンしてデジタル化しています。本に書いたメモをそのままデータとして残せるので、私にとっては電子書籍よりも有用性があります。

 紙の本か、電子書籍か──今のところ、自分のニーズやスタイルに合わせて上手に使い分けるのがベストだと思います。

 

経営者が古典を読む本当の理由

 私は1カ月で本を30冊以上読む生活を10年以上続けています。最初のきっかけは、サラリーマン時代に「独立したい」と目標を持ったことでした。

 しかし、職場の上司や先輩から起業や経営のノウハウを学ぶことはできません。だから、本を“先生”にしたのです。起業のために、あらゆる分野の本を読みました。起業マインドを高めるために有名経営者の自叙伝を読み、経営コンサルタントやマーケティングの本でビジネスのノウハウを学び、そして、登記や税金の本で会社経営に不可欠な実務を学びました。これらの本の中で、自分にできそうなことから実行していきました。

 そして、経営者の立場になった今も、本から得る気づきや学びが大きな糧となっています。

 それは上の立場になるほど「教えてもらう機会」が激減するからです。ビジネスの環境は日々刻々と変化していますから、経営者に新たな学びがないと、ビジネスも先細っていきます。それゆえに、日本に限らず世界のエリートはおしなべて読書家です。彼らは本から「知識」より「考えるきっかけ」を得ています。経済、社会、政治──世の中の事象には、ある一定のパターンがあります。多くの本を読むことで、そのパターンを読み取ることができます。物事を長期的かつ大きな視点で見ることができ、時代に先んじてカードを切っていくことができるようになるのです。

 とくに、古典や歴史書は、人間の心理や社会の動向の普遍的な真理を突いている本が数多くあります。経営者に古典や歴史書を好む人が多いのはそれゆえです。こうした本は堅くとっつきにくいところがありますが、私は意識して読むようにしています。現代人が読みやすい要約本も多く出ているので、そこから入ってみるのも手です。

 

本で得たベースに最新情報を重ねていく

 今は、ネットでもさまざまな情報を得られるようになりました。本がネットと大きく異なるのは、「体系的である」という点です。1つの分野を新しく知ろうとしたら、本を1冊読むだけで、重要なテーマや課題、その分野のキーパーソンが誰なのかまで1冊でまとめて得ることができます。一方で、本はネットに比べて即時性に欠けます。そこで本を読んで知識のベースを作り、ネットや雑誌などから最新情報をアップデートしていくのが現代における知識構築の最適な方法の1つです。

 私にとって、本はどんな分野の課題にも答えてくれる最強のメンターです。人生で迷ったとき、仕事の壁にぶつかったとき、人間関係で悩んだとき──私はいつも本を開き、活路を見出してきました。読書は知識を得られるだけでなく、新たな視点や想像性を高めてくれます。これこそ、どんな時代をも生き抜くための力です。アウトプット読書習慣を身につければ、本はあなたの未来を変えるだけの力を発揮してくれるのです。

《取材・構成:麻生泰子》
《『THE21』2016年2月号より》

著者紹介

藤井孝一(ふじいこういち)

アンテレクト代表取締役/経営コンサルタント

1966年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。中小企業診断士。独立・起業を目指すビジ
ネスパーソンに対し、実践的なサポートを行なう。「在職中から起業する」スタイルを「週
末起業」と名づけ、2003年に「週末起業フォーラム」を創設。1万人を超える人が学び、
独立・開業を果たす。独立・開業を、教育コンテンツ、パートナーシップ、インフラの面
からも支援するために、㈱アンテレクトを設立、経営。著書に、代表作『週末起業』(筑摩
書房)、近著『30歳からの「時間」の投資術』(三笠書房)ほか多数。

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