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名経営者たちから学ぶべきは「抽象化」の能力だ



2016年04月12日 公開

楠木建(一橋大学大学院教授)

その考え方は時間・空間を超えて通用する

 

 松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫……。時代を越えて評価される名経営者たちには、共通する要素があるのだろうか? そして、今、私たちが名経営者から学ぶべきことは何か? 経営学者の楠木建氏にうかがった。

 

「昭和」に名経営者が多い理由とは?

 伝説的な存在になっている過去の名経営者たちに共通する要素とは何か。この問いに対する楠木氏の答えは明快だ。

「経営者は個々の業務の『担当者』ではありません。ビジネスの最終的なゴールは儲けること。経営者の仕事は儲けることです。儲けるためには、『要するにこうやって儲けるんだ』という、ビジネスの総体を捉えた戦略のストーリーを構想して、動かしていかなくてはいけない。それがうまいのが名経営者と呼ばれる人たちです。

 多くのビジネスマンの働き方は、ビジネスの総体を相手にするようなものではありません。ビジネスに限ったことではありませんが、近代社会の基礎になっているのは分業です。全体を部分に分け、それぞれの部分をそれぞれのスキルを持っている人に任せる。ビジネスで言えば、会計担当、マーケティング担当……というようにです。さらに、会計は財務会計と管理会計に分かれ、財務会計はフィナンシャルレポーティング、監査、IRに分かれて……というように細分化されて、それぞれのスキルが決まっている。

 分業が進むと、それぞれのスキルごとに労働市場が発達するので人材調達がしやすいし、細分化されたスキルを身につけるための方法論が確立されるので人材育成もしやすい。こうしたメリットがあるので、ほとんどの人がそれぞれの『担当』の範囲で働く社会になったのです。

 その中にあって、経営者とはビジネスを丸ごと動かせる人。細かい1分野についてではなく、『要するに、こうやって稼いでいきましょう』と考えて、実行できる人が優れた経営者です。『M&Aのデューデリジェンスなら任せておけ』といった『スーパー担当者』は、どんなにプロフェッショナルとして優れていたとしても、経営者ではありません」

 こう考えると、なぜ昭和の時代に名経営者が多く生まれたのかもわかる。

「戦後から高度経済成長期にかけて生まれた小さな企業では、分業が進んでいませんでした。極端に言うと、創業社長が1人でやっている段階では、物理的に分業は不可能なわけです。つまり、会社の規模が小さいと分業がしにくく、そのぶん、『経営』という仕事をやりやすい。

 どんどん会社が大きくなっていく段階でも、『この業務の担当者は誰だ』なんて言っている暇はありません。新しいことでも、どんどん対応していかざるを得ない。こうした外的条件があったために、昭和の時代には多くの経営人材が出てきたのです。

 さらに遡れば、日本の資本主義の勃興期だった明治期に岩崎弥太郎や渋沢栄一といった桁外れの経営者が出てきたのも同じ理由です。

 おそらく、そんな時代は2度と来ないでしょう。大きな戦争でもあれば別ですが」

 

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著者紹介

楠木 建(くすのき・けん)

一橋大学大学院教授

1964年、東京都生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科修士課程修了。専門は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)などがある。

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