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「優等生社員のワナ」第2回 「さばく力」から「考え抜く力」へ

2016年04月10日 公開
2023年05月16日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

自分にとっての「全体」を定義しよう

ここでよく聞かれるのが、「意味・目的・価値というのは、会社、部門、個人など、どの立場で考えるべきなのですか」ということです。まずはこのことから、自分で徹底的に考えてほしいと思います。「自分は今、どこまでを『全体』と考えているか」を意識することは、物事を考える際に非常に重要なことなのです。

ビジネスにおいて、正解は一つではありません。立場や状況が変われば、導き出される答えも変わっていく。そこでまずは、「自分のチームの立場」で物事を判断してみる。それがうまくいかなかったとしたら、「これはチームだけの問題ではなく、会社全体の問題かもしれない」と全体をとらえ直して考える。

必要なら「業界」「地域」「国」「世界」へと全体を広げていく。もちろん、最初は情報が不足しています。しかしこうすることで、状況が変わったときにも臨機応変に考えることができる力が身につくのです。

 

「上司の的を狙わない」ほうが、むしろ的に当たる?

「自分にとっての全体を考える」のと対極的な思考が、前回触れた二つ目のワナ「上司の的に当てにいく」です。自分にとっての「全体」が、上司と自分との関係に限定されてしまっている。だから、たった一つの答えを上司が持っていると勘違いし、常に上司の顔色をうかがい、上司の好む答えを探ろうとするのです。しかし、上司の出した答えが事実や実態とかけ離れていることは多々ありますし、そもそも、上司の的を当てにいくことで、適切な答えに行きつくとは限りません。

ある大手企業の課長は、典型的な「上司の的に当てにいく」タイプでした。上司である部長の持っている答えを探り、それに合わせた提案をしようとする。結局、的は外れて自分の提案が突き返されることがしばしばあり、そんな上司への不平不満を口にしていました。

私が問題点を指摘すると、課長は「えっ、上司の考えを先読みするのが仕事ではないのですか」と驚いていましたが、いざ周りの知恵を活用しながら自分で答えを見つける努力を始めて半年も経つと、状況はガラリと変わってきました。部長から却下され続けていた提案や企画が、ほとんど通るようになったのです。

なぜかといえば、自分の頭で考え抜いた結果、部長の知見を超えたものが生まれるケースも出てきたからです。今のような先が読みにくい時代、部長職以上であっても、自分の判断が常に最善だと確信している人などほとんどいません。むしろ、現場の情報をたくさん持っている部下が現場や顧客の実態に即した答えを示してくれるのは、非常にありがたいことなのです。

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成果を出した人ほど「即断即決のワナ」に陥る >

著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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