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【今週の「気になる本」】『この闇と光』

2016年06月10日 公開
2016年06月28日 更新

服部まゆみ著/角川文庫

盲目のレイア姫の美しい世界からの反転

失脚した国王である父とともに、小さな別荘に幽閉された盲目のレイア姫。優しい父が聞かせてくれる物語や音楽、愛犬のダーク、そして召使いのダフネだけが、レイアの世界の全てだった……。

最初の更新なので、一押しの1冊をと思い、本作を選んだ。幻想文学でありながらミステリ的な要素もあり、中盤で訪れる「驚き」と、それに付随する「気づき」のインパクトが圧倒的。その意味で「記憶を消してもう一度読みたい」と思うのだが、初読から何年か経つのにその内容を決して忘れることができない。

実を言うと途中から、「驚き」につながる違和感を少しだけ覚えていた。しかし、それに気づかないでいたい、レイア姫とともにこの世界に閉じこもっていたいと思うほどに、「『レイア 一』」の章は美しかった。銅版画家でもあった著者の表現力豊かで繊細な文章や、センスと教養が際立つ言葉の選び方が素晴らしい。異国の可愛らしい姫君の世界が目を閉じればそこに浮かぶように伝わってきて、陶酔しながら読み進めた。

前述したとおり、本書は決してミステリではない。しかし「驚き」によるショックと「気づき」の重さはミステリ以上と言っても良い。きっと、世界が反転するようなショックを受けるだろう。そして、『この闇と光』というタイトルが示唆する本当の意味を知ることになる。

 


執筆:THE21編集部 Nao(「小説」担当)

 

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