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もう今の日本に「モノ」を買う人はいない

2016年10月15日 公開

寺尾 玄(バルミューダ社長)

【連載】急成長の家電ベンチャー・バルミューダの「ギャップを作る発想法」 第1回

 日本の大手家電メーカーが次々と業績を悪化させる中、機能とデザイン性を高いレベルで兼ね備えた家電を生み出して急成長を続けているベンチャー企業がある。寺尾玄氏が興したバルミューダだ。驚くべきことに、寺尾氏は技術者の出身でもなく、デザイナーの出身でもない。では、その製品は、いかにして生み出されているのか?

 

「知識や経験がない」はやらない理由にならない

 当社は、今では『GreenFan』という扇風機や『BALMUDA The Toaster』というトースターなどを作っていますが、家電を作りたいと思って立ち上げたわけではありません。実際、当初はマッキントッシュの周辺機器を作っていました。高校を中退して、放浪の旅のあと、専念していた音楽バンドが解散。「これからどうしようか」というときに「モノ作りをしてみたい」と考えたのが起業のきっかけでした。

 私はずっと音楽をやってきていて、どこかのメーカーで働いたことがあるわけでもなかったし、技術の勉強をしていたわけでもありません。必要な設計や製造の知識、技術といったものは、独学と、工場に飛びこんで教えてもらうことで身につけました。「そんなことで本当にできるようになるのか?」と思うかもしれませんが、そもそも専門家とそうでない人の間に越えられないほどの大きな違いがあるわけではないのです。

『GreenFan』を開発する際、流体力学を学ぶために専門書を読んだときにも、そのことを再確認しました。私が知りたかった「自然界と同じ風」を作る方法は、専門書にも書かれていなかったのです。「自分が知らないこともあるけれど、専門家でも知らないことがある」ということです。まだ誰もチャレンジしていなかったのかもしれませんが、その意味では、私も専門家も同じ「知らない者同士」。それほど大きな差はありません。

 だとすれば、知識や経験がないことなど気にせず、自分が本当に作りたいモノを作ればいい。これが私の考え方です。

 

どうせ倒れるなら前に向かって倒れよう

『GreenFan』は当社が初めて作った家電でした。実は、その開発に取りかかったときの経営状況は非常に厳しく、倒産寸前にまで追い込まれていました。私と社員一人、アルバイト一人という本当に小さな会社で、「ここで倒れるのなら、本当に作りたいモノを作って、前に倒れよう」という想いで開発したのが『GreenFan』だったのです。

 当時、扇風機の市場は枯れ果てていました。扇風機はモーターに羽根をつけただけの簡単な構造で、最も古い家電と言ってもいいものです。しかし、その長い歴史の中で技術が磨かれてきたわけではなく、2,000~3,000円という安い価格で売られる製品になってしまっていた。これでは利益が出ません。エアコンを作るほうが儲かるので、日本の大手家電メーカーのほとんどが扇風機から撤退していました。

 そんな扇風機を、なぜ作りたかったのか。それは、「涼しさを提供する新しい扇風機を作れば、絶対に必要とされる」と考えたからです。

 私はエアコンよりも扇風機が好きなのですが、当時の扇風機は熱い空気をかき混ぜているだけで、自然界のような涼しい風を起こすものではありませんでした。風を浴び続けていると気分が悪くなるし、かといって首を振らせると、一瞬しか風が来ない。扇風機の本来の価値である「涼しさ」が提供できていなかったのです。

 また、私の頭の中には、地球温暖化とエネルギー問題もありました。地球温暖化は、今、人類が迎えている最大のトレンドです。夏はこれからどんどん暑くなっていく。しかし、エアコンにはエネルギーの消費量が多いという問題がある。エネルギーの面からも、扇風機は必要とされるはずだと考えました。

 倒産寸前で資金も何もありませんでしたが、「作りたいモノを作る」という一念で開発をスタート。専門書にも作り方が書かれていない「自然界と同じ風」は、二重構造の羽根を考案して実現しました。

 デザインに関しては「どこからどう見ても新しいものに見えること」と「どこからどう見ても扇風機に見えること」という、一見、矛盾したコンセプトにこだわりました。「従来とは違う、新しい扇風機」というイメージは重要なのですが、「扇風機とは違う別の道具」にしてしまうと、誰も振り向いてくれないからです。あくまで皆が知っている「扇風機」でありながらも、「これまでとはまるで違う」という「驚き」があって、初めて買っていただけるのです。

 ただ、どんなに良いモノを作っても、知ってもらえなければ買ってもらえません。多くの人に知ってもらおうにも、当時、営業マンは私一人しかいませんでした。たった一人で何万台も売りさばくことは不可能ですから、「テレビで紹介してもらうしかない」と考えました。とはいえ、もちろん広告宣伝費なんかない。

 そこで、当時、有名だった家電芸人を事務所で入り待ちすることにしました。そして、「すごい扇風機があるんです」と懸命に話しかけているうちに、テレビ番組で取り上げていただくことができ、すると次の日から家電量販店から電話がどんどんかかってくるようになって、順調に売れるようになりました。

 モノを作るためには、金型代をはじめ、まとまった資金が必要です。そのための融資を銀行にしてもらう交渉もしなければならない。それも含めて、会社を経営していくために必要なバイタリティや難局を突破する力は、この時期に磨かれたような気がします。

 

枯れ果てた市場にこそ勝ち目がある >

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著者紹介

寺尾 玄(てらお・げん)

バルミューダ〔株〕代表取締役社長

1973年、千葉県生まれ。91年、高校を中退し、地中海放浪の旅に出る。92年、帰国して音楽活動を開始。2003年、〔有〕バルミューダデザイン(現バルミューダ〔株〕)を創業。10年、『GreenFan』を発売。15年、『BALMUDA The Toaster』を発売。

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