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「シゴトでココロオドル人」を、技術の力で世界中に増やす

2016年12月25日 公開
2017年02月01日 更新

仲 暁子(ウォンテッドリーCEO)

 

「Code wins argument」。議論よりユーザーの判断が重要

 ――ご著書などで創業の経緯を拝読すると、初めから今のサービスをやろうと思っていたわけではないということですね。

 インターネットのサービスのほとんどは、リリースをしてから大きく変貌するんです。Twitterはもとは別のサービスの1機能として開発されたものでしたし、Facebookも学校の中のオンライン名簿を使いやすくするために作られたものでした。Instagramもソーシャルゲームの一部を切り出したもの。Wantedly Visitも同様で、当初のサービスとは大きく変わっています。

 ――当初はどういうサービスを考えていたのですか?

 フェイスブック社にいたときに、実名制とソーシャルグラフ(ウェブ上での人のつながり)のパワーを感じたんです。私が高校生や大学生の頃のインターネットは匿名性が高くて「実名を出したら犯罪に巻き込まれる」くらいに思われていましたし、「インターネットはオタクのもので暗い」というイメージだったのですが、Facebookは違った。「このパワーを活かすためには、どういう切り口のサービスを作ればいいのか」ということを考えていました。

 ――試行錯誤を繰り返す中で、今のサービスが最も多くのユーザーに受け入れられたということですか?

 そうです。インターネットのサービスでは、ゼロを1にする、つまりサービスをリリースするフェーズでは、ミッションを掲げずに、いろいろなことを試したほうがいい。9割はうまくいきませんから。

 ミッションが必要になるのは、リリースしたあと、PDCAを高速で回していくフェーズになってからです。

 ――フェイスブック社への入社は、『Magajin』という漫画投稿サイトを自分で開発したことがきっかけだったということですね。プログラミングは独学で?

 それほど難しくありませんから、本を読んで勉強しました。新卒で入社したゴールドマン・サックス証券を辞めて本気で漫画家を目指していたのですが、その道は難しかったので、「漫画×テクノロジー」で何かやろうと思ったんです。

 ――インターネットのサービスがいろいろと登場していたからですか?

 そもそも高校生のときにインターネットのサービスを作っていて、そのときにインターネットのサービスの面白さを知りました。

 ――フェイスブック社で実名制やソーシャルグラフのすごさを知ったというお話がありましたが、事業の中身以外の部分で、ゴールドマン・サックス証券やフェイスブック社の経験が活きていることはありますか?

 フェイスブック社では、エンジニア中心のカルチャーやプロダクトを作るうえでの考え方を学びました。とくにいいなと思うのが、当社内でも言っている「Code wins arguments.」という言葉です。「コードを書いて他人を黙らせる」というような意味ですね。サービスの開発では「こうしたい」という議論が起こるのですが、「一番偉いのはユーザーなのだから、とにかく作ってユーザーが使うかどうかを計測して決めればいい」という考え方です。「Done is better than perfect.」という考え方も学びました。完成度よりもスピード感を重視するということです。

 ゴールドマン・サックス証券では、働き方の「型」が身につきました。求められる1人当たりのアウトプットが高くて、みんなが猛烈に働く企業に新卒で入社したことで、その働く姿勢が自分の中の基準になったのは良かったと思います。

 ――経営やマネジメントについては、どこかで学ばれたのですか?

 マネジメントはあまりしたことがなくて、苦手なんですよね(笑)。今は優秀なメンバーが集まっているので、マネジメントがいらないんですよ。

 重要なのは、やはり「シゴトでココロオドル」環境を提供することだと思います。そして、「シゴトでココロオドル」ためには、「自律」と「共感」と「成長実感」の3つがそろっていることが必要。

 自律というのは、自分の頭で意思決定ができること。共感は、会社の向かっている方向や事業、プロダクトに納得感があって、自分事化して仕事ができること。成長実感は、仕事が簡単すぎず、難しすぎず、チャレンジングで良い学びがあること。これらを社員に提供できれば、マネジメントはいりません。

 ――エンジニアに大きな権限を与えているという先ほどのお話は「自律」に当たるわけですね。その他に、「シゴトでココロオドル」環境を提供するためにしている施策はありますか?

 共感をしてもらうために方針を明確化するということでは、「カルチャーランチ」をしています。週1回、3~4人の社員と一緒にランチを食べて、私が何を考えているかを伝えているのです。

 組織の問題は、たとえば営業チームと開発チームの仲が悪いというような横の断絶か、経営陣と現場が理解しあえないという縦の断絶から生まれます。どちらもコミュニケーションの問題ですから、コミュニケーションの量を増やせば解決します。歯磨きみたいなもので、コミュニケーションも、すぐには効果が実感できないけれども、続けることで「健康」を維持できるものなのです。

 ――今、社員は何人くらいですか?

 正社員は50人もいないくらいで、契約社員やアルバイトも含めると100人弱です。

 ――今後、どのくらいの時間でどのくらいの規模になろうというイメージはありますか?

 社員の数は結果なのであまり考えていませんが、1人当たりの生産性を上げて、少ない人数で大きい目標を達成できればと思っています。アクティブユーザー数で言うと、自然増だけで2017年末には月間200万人には届くと思います。それに100万人プラスして、300万人にすることを目指しています。

 ――そのための施策の1つがWantedly Peopleだということですね。

 そうです。加えて、インドネシアとシンガポールでの展開も進めています。これまでは日本人を送り込んで準備を進めていたのですが、日本語ができなくても英語ができればいいので、現地の人を採用するという方針に切り替えました。良い人材の採用さえできれば、マネジメントをしなくても任せればいいだけなので、仕事は99%終わりだと思っています。

 ――将来的な夢として考えていることはありますか?

 世界の中での日本の地位が低下しているので、それをなんとかしたいと思っています。とくにネット系では、世界に出て行って外貨を稼いでいる日本企業はありません。海外進出しているといっても、買収や出資という形です。自分たちのプロダクトで世界に出ている企業は本当にない。国内だけで事業を横展開するだけで時価総額1兆円の企業が作れるような環境なので、国外を見ている経営者がいないのだと思います。私たちは、自分たちのプロダクトを使って、「シゴトでココロオドル人」を世界中に増やしたいと思っています。

 それから、日本の給与水準を上げたいと思っています。それとセットで、雇用の流動性も高めたい。仕事ができる人の給与は上がり、できない人はクビになる、という世界的な流れがあり、日本もその波には遅かれ早かれ飲み込まれることになると思います。米国ではこのシステムが機能しているから優秀な人が集まってイノベーションが生まれています。仕事ができない人の雇用も守られている日本のシステムも、社会の安定に役立っているので良い面はあると思うのですが、良い人材は集まりにくいと思います。

 

これから、日本人の働き方はどうなるのか?

 ウォンテッドリーは、「シゴトでココロオドル人を増やす」ことをミッションとしているだけあって、自社の社員が「ココロオドル」ための環境を整えている。ただ、当然のことだが、単に楽しく仕事をすればいいわけではない。結果を出すことが求められる。「同じくらいの熱量の人が集まって結果を出すから楽しい。体育祭みたいなものです」と仲氏は言う。そのカルチャーに合わない人、期待値に達しない人は、ウォンテッドリーに残ることが難しい。一方で、「うちで結果を出した人は、どこに行っても通用しますよ」とも話す。働き方について明確な考え方を持っていることが、取材で印象的だったことの1つだ。

 もう1つ印象的だったのが、企業理念を掲げるだけでなく、それを実現するための技術開発に本気で取り組んでいることだ。「技術は手段に過ぎない」と軽視するのではなく、エンジニアを中心とした企業カルチャーを作り上げたことが、ウォンテッドリーの強みになっている。

 ウォンテッドリーが業績を伸ばしているということは、日本人の働き方や日本企業の考え方の変化が着実に進んでいることを示しているのかもしれない。日本で働くすべての人に、重要な示唆を与えてくれる企業だ。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

仲 暁子(なか・あきこ)

ウォンテッドリー〔株〕代表取締役CEO

1984年生まれ。京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。退職後、Facebook Japanに初期メンバーとして参画。2010年、フューエル〔株〕(現ウォンテッドリー〔株〕)を設立し、Facebookを活用したビジネスSNS『Wantedly』を開発。

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