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星野リゾートの現場力(2)星のや竹富島の「種子取祭」

2016年12月27日 公開
2023年05月16日 更新

星野佳路(星野リゾート代表)

楽しみである人との交流が仕事にも結びついた

一般的な会社員にとっては、仕事と遊びとは切り離して考えるものだろう。しかし、日本を代表するリゾート運営企業・星野リゾートでは、現場スタッフが「遊び」や「楽しみ」の中に仕事のヒントを見つけ、企画につながっているケースや、逆に仕事の中に趣味を見出すケースがあるという。そこで、本連載では、そのような「遊びと仕事」の融合の事例を紹介し、代表の星野佳路氏からも解説していただく。第2回は、「星のや竹富島」から、仕事を離れても現地の人と交流をし、それを仕事に活かすスタッフの様子をリポート。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影(星野氏)=長谷川博一》

 

島人と積極的に交流し地域とリゾートの架け橋に

沖縄県・竹富島に2012年にオープンした「星のや竹富島」。開業当初からサービスチームで働く田川直樹氏は、星野リゾートが竹富島に文化リゾートを開業すると知り、希望してこの地にやってきた転職組だ。

幼少期から海外生活が長く、地域独自の歴史や文化を学ぶことが好きだった田川氏。着任早々、プライベートな時間を使って自主的にある活動を始めた。島の人たちとの交流である。

「私たち星のやのスタッフは当初、多くの住民の方々から警戒されていました。みなさん、私たちが本当に地域と共存していくつもりなのか、不安だったのだと思います。また、島に受け継がれる文化についても、積極的に外に発信したがりませんでした。星のや竹富島の一員として島人たちとどのように付き合っていくべきか。それを探るためにも、星のや竹富島と島人をつなぐ役割が必要だと思ったのです」

島では年間で約20もの祭事が行なわれるが、若者が少なく人手が足りない。そこで田川氏は、会場の草むしりや祭りの準備など、島人から頼まれればなんでも手伝った。青年会の若者たちと一緒に、島の運動会に参加したこともある。そうして島人との交流を深めながら、彼らが大切にする歴史や文化を理解し、彼らが望む形で島の魅力を発信できるよう、星のや竹富島のサービスに取り入れていったのである。

 

島の神事「種子取祭」を島の魅力として発信する

まず注目したのが、種子取祭だった。種子取祭とは、約600年の歴史がある国の重要無形民俗文化財で、島の魂とも言える神事である。「星のや竹富島」では、祭りのハイライトである奉納芸能を鑑賞するツアーのほか、普段は観光客が見ることのできない、祭り本番前の練習風景見学ツアーも行なっている。この見学ツアーは、田川氏と島人との交流があったからこそ実現した企画である。

また、ある日のこと、島の「おじい」に呼ばれて家に行くと、もずくを3キロ渡された。「竹富島のもずくは、コシと弾力があってすごくおいしいんです」と田川氏。当時、巷ではもずくが美容に効くと注目されていたこともあり、「もずく収穫体験」をプランに組み込んだ。

人との交流が好きとはいえ、島人の信頼を得るには苦労もあったはずだ。それでもあきらめなかったのは、「私自身、竹富島に流れる島時間で癒される実感があったので、これをぜひお客さまにも体験してほしかったから」と田川氏。そのためにも、島の文化の発信が島の魅力につながることを、島人たちに知ってもらう必要があったのだ。

「やりたいことを自分で選んで仕事にしているので、今は仕事が楽しい。自分で選んだからには、結果も出したいですし」。すっかり〝島人〟らしくおっとりとした口調ながら、確かな意思が感じられた。

 

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著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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