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五感を使った仕事を意識する 錺簪職人 三浦孝之

2017年05月10日 公開
2023年07月12日 更新

<連載>一流の職人に学ぶ「仕事の流儀」第6回

仕上がりから各工程を逆算する

 修業開始から、25年。今年で50歳の孝之氏は職人として円熟期を迎える。しかし、今だからこそ感じる仕事の難しさがあるという。

「一番難しいのは、平面の段階から作品がどう仕上がるのかイメージしなくてはならないことです。

 私は江戸時代などに使われていた簪を預かって復刻する仕事もしているのですが、平面図を起こし、いざ切り抜いて立体にしてみると、予想よりも一回り小さかったりするのです。すると、作品の全体的なバランスが悪くなります。昔の簪はデザインが洗練されているので、飾りが少し大きくても小さくても無骨になってしまいます。

 作品全体を俯瞰して、各工程を正確に逆算するのはある程度経験を積んだ今でも難しい。

 修業から10年も経てば、簪らしきものは作れるようになりますが、作品の良し悪しがわかるようになった今のほうが、最終的なバランスの難しさを感じています」

 ただ一方で、ちょっとした誤差が作品の味わいを生むこともあるという。

「今では、機械による量産が主流になっています。3Dプリンターを使って製作すれば設計通りのものができあがるでしょう。しかし、私が手作りにこだわり続けている理由は、ちょっとした歪みやブレが作品の温かみを生むことがあるからです」

簪の先端は耳掻きと呼ばれるが、毎日洗髪ができなかった時代に、髪型を崩さずに頭皮を掻いたり、髪を整えるために使われていたのだとか。

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著者紹介

三浦孝之(みうら・たかし)

錺簪(かざりかんざし) 職人

1967年、東京生まれ。デザイン専門学校を卒業後、広告代理店で、デザイナーを志す。25歳のとき、祖父の死をきっかけに家業である錺簪の仕事を継ぐことを決意。歌舞伎や日本舞踊といった舞台用の簪の製作を中心に活動している。

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