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【今週の「気になる本」】『ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)』

2017年06月02日 公開

R.P.ファインマン著/大貫昌子訳/岩波現代文庫

天才物理学者の冒険的日常

この本を知ったのはかれこれ10年以上も前。大学1年の時だった。タイトルを見て、それこそ「ご冗談でしょう」と思ったことは言うまでもない。
社会に出て、編集者として自分で100冊以上の本にタイトルをつける経験を経た今でも、やっぱり「ご冗談でしょう、そのタイトルは」との気持ちは変わらない。すごいタイトルである。敵わない。

著者でありタイトルにもあるリチャード・フィリップス・ファインマン氏は、1918年アメリカ生まれの天才物理学者。65年には量子電磁力学の発展に貢献したとしてノーベル物理学賞を受賞したハンサムな人物だ。本書を始め、ユーモラスな著作も数々出版した物理学界の人気者だった。40年代にはマンハッタン計画に(しぶしぶ)従事していたことでも知られているが、本書を読む限りではファインマン氏はどこまでも純粋な好人物である。
私はドのつく理系オンチのため、ファインマン氏の専門分野における功績についてはこれを評価できる立場にない。しかし、ファインマン氏が発案したファインマン・ダイアグラムのすごさはわからなくても、彼の恐るべき好奇心と正直さについては本書を読んで大いに笑わせてもらったし、それ以上に感服した。

 たとえば彼には本ではこんな逸話が紹介されている。
・10代の頃、ホテルのバイトで任された野菜切りや電話番を効率化しようと、様々な方法やアイテムを発案。実行して得意になるも上司には怒られっぱなしで、「小利口な人間には何を言っても無駄」であり「刷新ということがいかに難しいか」を若くして学んだ
・プリンストン大学院時代、催眠術の実験台に熱烈立候補。かかったふりをしてやろう、動こうと思えば動けるに決まっていると息巻くも、本当に身体が言うことをきかなくなり、驚愕。「できるけどやらないだけさ」と人が言うのは「できないというのを別な言葉で言っているだけのこと」なのだと悟る
・ペンキ屋のおやじが「赤と白のペンキを混ぜると黄色になる」と言うのを聞いて、そんなはずはないと言いつつも好奇心に抗えず、自らペンキを買ってきて実演させる。当然ピンクにしかならないのを見て、自分は「起こるべき結果をほとんど確実に知っていながらも、やっぱりそれでも何か未知のことが起こる可能性はある、とついつい思ってしまう」と反省
・ブラックハウンド犬の鋭い嗅覚についての記事を読み、人間の鼻とどれほど違うのかとブラックハウンドになりすまして実験を敢行。人が触ったビンや本は存外すぐわかるものだと身をもって体感し、「人間の鼻だってそう人が思うほど馬鹿にしたものではない」と結論づける。ちなみにこの犬になりすます実験を最初にやったのは、病に伏せって入院中の妻の病室だった

どうだろうか、この無邪気さは。本書にはもっと過激ないたずらや実験がたくさん載っている。普段はこんな調子のファインマン氏だが、彼はその1つ1つから学び、反省し、何よりも面白がって思考をふくらませていく。ノーベル物理学賞につながるような発見やアイデアも、こうした日常から生まれてくるのである。彼の日常は、たしかに日常でありながら、わくわくや驚きに満ち満ちて、さながら冒険譚のようなのだ。

色んな壁にぶつかり唸った経験のあるビジネスパーソンにとって、「面白がれる力」こそがすべての原動力であり、発端であると思い出させてくれる名作。他にも『聞かせてよ、ファインマンさん』『困ります、ファインマンさん』など、タイトルからして期待せざるを得ない講演集やエッセイ集などがある。物理学に心得のある人ならもっと面白いだろうし、ド文系の人でもまったく問題ない。頭が凝り固まっていると感じた際に一読をお勧めしたい。

執筆:MO(「人文・社会」担当)



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