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【今週の「気になる本」】『おんな城主 直虎(一~三)』

2017年09月15日 公開

森下佳子・豊田美加著/NHK出版

「答えは一つではない」と教えてくれる傑作

今年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』は傑作だ。
特に、第33回「嫌われ政次の一生」は、視聴後はしばらく言葉を失った。悲しみ、怒り、感傷、愛しさ、ただたださまざまな感情が心中を去来し、立ち上がれないほどの衝撃を受けた。この回は間違いなくドラマ史に残る強烈なインパクトを残しただろう。

ただ、この回だけ観てその感動を味わえるかと言うと、そうではないはずだ。第1回から積み重ねてきたものがあるからこその面白さであったと思う。
たとえば、本作では序盤、子役を使った子供時代の描写をひと月にわたって放送した。近年の大河ドラマでは子役時代は初回のみということが多く、それに比べて異例の長さであったが、ここでしっかりおとわ(井伊直虎)と亀之丞(井伊直親)、そして鶴丸(小野但馬守政次)の友情を描いてくれたからこそ、その後の様々な描写が生きたし、別れがよりつらく感じられた。
また、同作では「今思えばあの時のあのセリフは、こういう意味だったのか」という伏線をさまざまな部分に読み取ることができる。こういう楽しみ方は、1年という長いスパンで一つのテーマを描く大河ドラマを見続ける醍醐味でもある。そして、半年以上が過ぎたこの時点で「積み重ね」「伏線」を感じ取れるのは、ひとえに脚本が秀逸だからだ。

本作の良さはいろいろあるが、私が中でも最も素晴らしいと思う点は、「答えは一つだけではない」と教えてくれることだ。この言葉は、主要登場人物で直虎の師である南渓和尚の象徴的なセリフでもある。

たとえば、前述した第33回で生涯を終える小野但馬守政次の描き方がそうだ。史実での小野政次は「奸臣として井伊を欺き、処刑された」と伝わっている。しかし、本作における小野政次は「今川の犬を装いながら(直虎以外の身内をも欺き)、実は今川から井伊を守る盾となっていた、本当は誰よりも忠実な家臣」として描かれていた。
この違いをどううまく繋げるのか非常に興味深かったのだが、大胆かつ繊細な脚本によってうまく繋げていた。この部分の展開は、誰も想像できなかったのではないだろうか。
まさか史実をベースに描いたドラマで、こんなにも脚本に驚かされるとは思わなかった。歴史の裏側で実際に人々が何を思い、どう感じていたのかまではわからないことを教えてくれる場面であったと思う。

奇しくも本作の放送開始直前に、「井伊直虎は実は男性だったかもしれない」という説がニュースになったのを覚えておられる方は多いのではないだろうか。そもそも、主人公の直虎については史料が少ないこともあり、「そんな、男か女かもよくわからない人を主人公にして大丈夫なのか」という声が上がった。
しかし本作の中には直虎を指して「男か女かもわからない珍妙な生き物」という表現が登場する。たしかに、城主としての直虎はそんな一面を持つキャラクターだ。そういう女城主がいたとして、後世に伝わる人物像が「男か女かわからない」というのはあり得る話ではなかろうか。
このセリフを聞いたとき、私は「井伊直虎男性説」を逆手に取ったユーモアではないかと思ったものだ。史料が少ないからこそできる、自由に描いたドラマの面白さを存分に感じ取れる作品である。

そういうわけで、一度観ただけで忘れてしまった部分の復習も兼ねて、第33回視聴直後にこのノベライズを読んでみた。大変読みやすく、脚本の上での大事なセリフはほぼそのまま活かされており、やはりストーリーを文字で追うだけでも相当に面白い。
ドラマは終盤に入り、もうすぐ成長した井伊直政が登場する。ノベライズの完結編となる第四巻は9月末に発売となるようで、最終回放送前に読むべきか、後の楽しみにしておくべきか、悩んでいる。

 


執筆:Nao



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