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【今週の「気になる本」】『俺たちの「戦力外通告」』

2018年03月09日 公開
2018年03月09日 更新

高森勇旗著/ウェッジ

「宙ぶらりん」の辛さと、そこで問われる人の真価

毎年、年末に放映される人気番組「プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達」。私もついつい観てしまう。身重の妻が見守る中(なぜか奥さんが妊娠していることが多いのは、そういう人をあえて選んでいるから?)、わずかなチャンスにかけるか、それとも別の分野での再出発に踏み切るかの選択を迫られる彼らを観ていると、プロ野球は厳しい世界だということをつくづく思い知らされる。

だが、今回紹介する『俺たちの「戦力外通告」』を読むと、また別の印象を受ける。
確かに戦力外通告を受けたあとの逡巡も辛いが、より辛いのは、戦力外になるかならないかの瀬戸際でプレイする、「戦力外前夜」ともいうべきその時間ではないのか……。

本書は、大活躍するもその後「戦力外」を通告された著名選手たちへのインタビュー集だが、著者の高森勇旗氏自身が元プロ野球選手で、まさに「戦力外」を体験した一人。それだけにリアリティが違う。

氏によれば、戦力外が通告される秋を待たずして、もう夏前くらいには自分が戦力外になるかどうか、本人はもちろん周りの選手たちにもわかるそうだ。なにしろ、試合に出る機会すらほとんど与えられなくなる。モチベーションを保つのは極めて難しい。

そんな状況の中でも、毎朝同じ時刻に来てバットを振り続けるベテラン選手がいたという。それが、本書にもインタビューが載せられている横浜ベイスターズの佐伯貴弘選手だ。そしてその姿は、戦力外通告を受けた後すら変わらなかったという。

もちろん、そんな割り切りができる選手ばかりではない。だが、本書を読むと、このつらい「宙ぶらりん」の時期に何をしたかが人生を決める、そんな印象を受ける。

わかりやすいピンチや逆境ではない、真綿で首を絞められるようなゆっくりとした絶望感。レベルは違えど、どんな仕事をしている人でも経験したことがあるはずだ。

では、その中でどうするか。

ふてくされて自暴自棄になるか。それとも、最後の最後まで精いっぱいの努力を続けるか。

著者の高森氏を、横須賀で行われたベイスターズの二軍戦で何度か見たことがある。正直、当時は数多いる選手の一人だった。彼らがどんなことを考えているか、思いを馳せることはあまりなかった。正確には、「苦しい立場に立っている選手は大変だろうな」くらいには思っていた。だが、それをリアルに感じ取れなかったのだ。

本書で取り上げられるのは著名選手ばかりだが、どんな選手でも一人ひとりに、そんなドラマや葛藤がある。本書を読むとそれを改めて痛感させられる。

次に二軍戦を観に行く際にはたぶん、楽しみとともにちょっと憂鬱な気分になりそうだ。


執筆:Y村

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