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世界のトップ企業が「バンガロール」に集結する理由

2018年03月02日 公開

武鑓行雄(元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長)

日本企業に必要なのは「インド・シフト」だ


アマゾンなどが入居しているバンガロールのワールド・トレード・センター

日本人は皆「バンガロール」を知るべきだ……こう主張するのは、バンガロールに7年にわたり滞在し、現地のビジネスをつぶさに観察してきた元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長の武鑓行雄氏だ。そうした経験から氏は、日本は今こそ「インド・シフト」が不可欠だと指摘する。同名の新著『インド・シフト』を発刊した氏に語っていただいた。

 

インドの技術力はすでにシリコンバレー並み

「今、日本に必要なのは『インド・シフト』である」
というと、
「人口13億人の巨大マーケットであるインド市場に、日本企業はもっと進出せよ、ということだな」
と早合点する人が多いかもしれない。確かに、インドは新興国の中でも経済がとくに好調で、今後も人口増加と経済成長が見込まれる要注目のマーケットだ。

しかし、私が述べたいのはそういうことではない。
「インドにグローバル戦略拠点や研究開発拠点を置き、社内のトップ人材や資金といったリソースを徹底的に投入する。そして、インドの高度IT人材とともに、インドから世界的イノベーションを生み出していくこと」

これが私の言う「インド・シフト」である。

「なぜインドで?」と意外に思ったかもしれないが、ここ数年、世界のトップ企業は軒並みこのシフトを進めている。しかもその勢いは増すばかりだ。

こうした背景には、インドIT業界の急成長と激変がある。
ご存じの方も多いと思うが、インドIT業界はもともとアメリカ企業のシステム開発の下流工程を低価格で手がける「オフショア拠点」として発達した。しかし近年は急速に力をつけ、下流工程だけでなく上流工程まで手がけるようになり、今や世界を相手に1540億ドル(約17兆円)のビジネスを展開するまでに成長した。大手インドITサービス企業は巨大化し、グローバル企業のインド開発拠点は増え続け、インド発のスタートアップ企業も急増している。

さらに、ビッグデータ、AI、IoT、ブロックチェーンといった破壊的とも言われる新技術の登場がその成長を加速させている。シリコンバレー企業とともに動き、しかも若年の高度IT人材の数がケタ違いに多いインドIT業界は、こうした新技術へのキャッチアップが圧倒的に早いからだ。そのIT技術力はシリコンバレーにも迫ろうとしている。

そして、こうした激変の中心地が、南インドの都市、「インドのシリコンバレー」と呼ばれる「バンガロール」なのだ。

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未整備のインフラを逆手に躍進 >

著者紹介

武鑓行雄(たけやり・ゆきお)

元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長

元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長。ソニー株式会社入社後、NEWS ワークステーション、VAIO、ネットワークサービス、コンシューマーエレクトロニクス機器などのソフトウェア開発、設計、マネジメントに従事。途中、マサチューセッツ工科大学に「ソフトウェア・アーキテクチャ」をテーマに1年間の企業留学。2008 年10 月、インド・バンガロールのソニー・インディア・ソフトウェア・センターに責任者として着任。約7年にわたる駐在後、2015 年末に帰国し、ソニーを退社。帰国後も、インドI T業界団体であるNASSCOM(National Association of Software and Services Companies)の日本委員会(Japan Council)の委員長(Chair)として、インドIT業界と日本企業の連携を推進する活動を継続している。
慶應義塾大学工学部電気工学科卒業、および大学院工学研究科修士課程修了。2011 年6 月から2013 年5 月までバンガロール日本人会会長を務める。2014 年1 月、電子書籍『激変するインドIT業界 バンガロールにいれば世界の動きがよく見える』(カドカワ・ミニッツブック)を出版。

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