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AIで仕事がなくなる…!? 本当に来るのは「すき間労働」社会!

2018年05月25日 公開
2023年03月16日 更新

海老原嗣生(雇用ジャーナリスト)

 

個人営業は減少しても、営業職種全体の雇用は減少しない理由

 営業に付随する一見無用な行為にも意味があると理解できたところで、営業職の雇用がAIによってどう変化するかを検証しよう。

・高額かつ専門的な知識が必要な営業領域
・個人向けの廉価で定型的な営業領域

 営業領域を2つに分けたとき、前者は儀礼的行為が必要な領域である。一方後者は、すでにどんどん自動化が進んでいる。例として、「旅行代理店や保険会社」が挙げられる。これらの分野は、ネット取引による効率化によって大幅に営業が省略化されてきた。もっとも、電話で応対するオペレーターの需要は残るだろう。ここまでの話を整理すると、営業職の未来は以下のように考えられる。

◎廉価な定型サービスについては自動化が進み、人手は少数の電話オペレーターに集約されていく。
◎高額かつ専門性の高い領域は、将来的にも人手を介した営業が残る。
◎結果、個人向け営業職で残るのは、一部の富裕層向けの仕事か、もしくは、キャッチセールス的な属人ノウハウが強烈に必要な仕事となり、あとは衰退していく。

 とすると、多くの個人向け営業職の雇用が消失するため、営業職全体の雇用も今後減っていくように思える。しかし、すでに個人向け営業職の多くがネット取引で省力化されてきたにもかかわらず、この20年間、営業職従事者は減るどころかむしろ増えている。この間に生産年齢人口は約1,000万人、総人口も100万人減っているにもかかわらず、だ。

 日本社会は、どこかで営業職の余剰が生まれれば、それをさらに営業職が必要な領域で吸収してしまうのだろう。このメカニズムは、日本型と欧米型の営業を比較することで見えてくる。

 たとえば、日本のメーカーの場合、個々の営業員が担当する小売店に対して、売上アップのために即興提案を行う。だから中堅社員ともなれば、けっこうな営業スキルが求められる。対する大手外資系メーカーの営業はというと、中央コントロールによる画一的な提案書を営業員に配布する。非常に良くできているが、それを配るのは非熟練の若手営業だ。そして、提案したキャンペーンなどへの詳細問い合わせはコールセンターが受ける。

 欧米型の「下は考えず、上が作ったルーティンを黙々とこなす」方式だと自動化は早い。一方で、日本型だと、熟練が必要でなかなか自動化や非正規化がままならない。だから、営業領域の雇用が一向に減らないのだろう。

 しかも、日本型の「末端営業員まで頭を使って工夫をする」型の営業は、顧客の売上を増やすことよりも、「頑張ってくれてるね」という顧客の信頼獲得が主目的となっていることが多く、そうすれば数字が伸びなくとも、顧客は「仕方がないね、ありがとう」と言ってくれる。つまり、「汗かきのための汗かき」が日本ではまだまだ通用してしまう。いくらグローバル化が叫ばれようが、日本国内に特化したドメスティックな営業では、こんな商習慣が支配的となる。だから一向に生産性は上がらず、その裏返しで雇用も減少しないと予測できよう。

 

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著者紹介

海老原嗣生(えびはら・つぐお)

雇用ジャーナリスト

雇用ジャーナリスト、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。

1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』の主人公、海老沢康生のモデル。
著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)、『経済ってこうなってるんだ教室』(プレジデント社)などがある。

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