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「いきなり!ステーキ」を急成長させた経営者は、いかに困難を乗り越えてきたのか?

2019年01月03日 公開

一瀬邦夫(ペッパーフードサービス社長)

倒産の危機を迎えたとき、「人の上に立つ覚悟」が決まった

 

『いきなり!ステーキ』のファンは、読者の中にも多いのではないだろうか。その運営会社ペッパーフードサービスの創業社長である一瀬邦夫氏は、幾多の困難を経て、同社を急成長させてきた。なぜ、挫けることがなかったのか。そのメンタルの秘密に迫る。

 

叱るからではなく叱らないから人が辞める

 ステーキ専門店『いきなり!ステーキ』は、誕生して5年足らずで、国内337店舗、国外10店舗(今年10月23日現在)という快進撃を見せている。これを運営するのが、一瀬邦夫氏が率いるペッパーフードサービスだ。今年9月には、日本の外食企業として初めて、米ナスダック市場に上場。今、外食産業で最も勢いのある企業の一つである。
 しかし、一瀬氏はこれまでに倒産の危機を2度も経験するなど、今に至る道のりは決して平坦ではなかった。数々の困難を乗り越えてきたメンタルの強さは、どのように培われたのだろうか。
 一瀬氏の歩みをひも解くと、50歳になる頃に訪れた人生初にして最大の危機と、そこから脱出した経験が転機となっていた。

「『キッチンくに』の開業が当社の始まりですが、それが4店舗に増えた頃のことです。

 多店舗展開を進めるには、多くの従業員が必要です。彼らが辞めてしまうことを恐れて、私は従業員に自分の意見や指示を言えない経営者になっていました。

 売上げはたちまち下がり、全店が赤字。ついに貯金が底を尽いて、『来月は倒産か』という瀬戸際に追い込まれました。

 そこで目が覚めたのです。『現実逃避していてはいけない。従業員にモノが言える社長に変わらなければならない』と」

 そこで一瀬氏が打ち出したのが、社員の給与カットを含む、経営の再建計画だった。

「従業員は、当然、反発しました。店長の一人が『給料をカットしたら全員辞めますよ』と言いましたね。でも私は、それでもいいと思った。そのままでは倒産するしかないのですから。

『辞めたい人は、今すぐ出て行ってくれ』と言いましたが、『会社を倒産させない』という私の決意が伝わったのか、誰一人出ていくことなく、3カ月後には経営を軌道に乗せることができました」

 人の問題は、どの企業も成長過程で乗り越えなければならない最重要課題だと、一瀬氏は言う。

「この経験から学んだことは、『叱る社長ではなく、叱らない社長に従業員は絶望する』ということです。社長として人の上に立つ覚悟――これが、私の精神面での支えになっています」

 

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著者紹介

一瀬邦夫(いちのせ・くにお)

〔株〕ペッパーフードサービス代表取締役社長CEO

1942年、静岡県生まれ。高校卒業と同時にコックの修業に入る。70年、『キッチンくに』を開業。85年、〔有〕くに(現・〔株〕ペッパーフードサービス)を設立し、代表取締役に就任。94年、『ペッパーランチ』の展開を開始。06年、東証マザーズに上場。13年、『いきなり!ステーキ』の展開を開始。14年、米国子会社設立。17年5月に東証二部、同8月に東証一部に市場変更。18年、米ナスダックに上場。

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