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Mellow「シェフたちのこだわりの料理を、フードトラックで広く世の中に」

2018年11月29日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】森口拓也(Mellow代表取締役)

 

 

家賃などから「個人のこだわり」を解放する

 ――森口さんご自身についてのお話も聞きたいと思います。Mellowに関わるようになったのは、どういう経緯ですか?

森口 僕は、今、26歳なのですが、大学在学中の21歳のときにチャットアプリを開発する会社を起業しました。それがうまくいって、23歳のときにイグニスにM&Aをされたのが、柏谷とのつきあいの始まりです。それから1年半後に、一緒にMellowを立ち上げました。

 ――Mellowの立ち上げまで、食には関わっていなかった?

森口 そうです。柏谷が創業のエピソードとして、「死んだような目でコンビニ飯を食べている人たちがあふれていた。彼らをどうにかしないといけないと思った」という話をよくするのですが、僕はどちらかというと、死んだ目をしている側でした(笑)。

 ――(取材に同席していた柏谷氏に)柏谷さんは、フードトラックで食べた料理に感動して、フードトラックでの修業に入り、Mellowを起業されたということですね。普通は、上場企業の取締役を務める人が、感動したからといって、フードトラックで働こうとは思わないと思いますが……。

柏谷 事業の案があった状態で、たまたま、すごく美味しいパエリアを販売しているフードトラックに出会ったんです。

 疑い深い性格なので、考えているビジネスが本当にうまくいくのかどうか確かめるために、実際にフードトラックの中に入って修業をしました。「美味しい」という感動だけで始めると、だいたい失敗するので(笑)。

 ――フードトラックの事業をやると聞いたとき、森口さんはどう思いましたか?

森口 ペット事業をやるか、介護事業をやるか、フードトラック事業をやるか、というような話は前からしていたので、それほど意外ではなかったですね。僕もITだけをやりたいとは思っていませんでしたし。「この人がここまで確信しているのなら、僕にできて他社にできないこともあるし、ぜひ一緒にやろう」と思いました。

 実際にフードトラックが営業している現場に行って、列を作っているお客さんの顔を観察したり、料理を食べてみたり、1食の提供にかかる時間を店ごとに比べてみたりすると、アプリを作る仕事と比べてもかなり奥深いと感じましたし、「これがもっと広まれば、社会はもっと良くなる」とも感じました。普通の店だと、家賃、敷金、礼金、原状回復費などがかかりますが、クルマを使った店だと、そうしたものから解き放たれて、個人のこだわりを自由に発揮しやすくなりますから。

 ――「自分にできて他社にはできないこと」というのは、システムのことでしょうか?

森口 それは一つ、明確にあったところですね。IT企業家がフードトラックをやることなんてありませんから。

 もちろん、不動産や飲食の会社がフードトラック事業をしても、外注でシステムやアプリを作ることはできます。けれども、事業にとって理想的なシステムのあり方について、ある種の「信念」みたいなものを持っている人間がいるかどうかは、大きな差になって現れると思います。

 ――最後に、今後の事業展開について聞きたいと思います。TLUNCH以外の事業も展開する考えですか?

森口 はい。まず、今はお借りしているスペースをランチの時間しか活用していない状態なので、朝や夕方などにも活用していきたいと考えています。この事業は、TLUNCHブランドで展開するか、別ブランドにするか、まだ決めていませんが。

 例えば、朝、トラックが有名なパン屋さんをめぐって、それぞれの店のクロワッサンを仕入れ、オフィスビルの下で買えるようにする。その横にコーヒースタンドのトラックも並んでもいいでしょう。そういった朝ご飯の業態ができないか、というようなことを考えています。

 我々は「人を元気にする」ことにこだわっている会社で、食は、その一つとして、最初に手がけたジャンルという位置づけです。料理を食べるお客様はもちろん、提供するシェフにも、お客様の笑顔を見て元気になっていただきたいという想いでやっています。

 食以外の事業展開も考えていますが、「人を元気にする」という軸から外れることはありません。例えば、夕方、オフィスの下のトラックでマッサージを受けて元気になってもらう、というようなことも考えています。

 マッサージについては、今年7月にテスト営業をしました。提携して一緒にトラックを作れる会社を探したりもしています。来年か再来年あたりに形になればと思っています。

 ――クルマを使ったサービスとしては、MaaS(Mobility as a Service)が話題です。

森口 MaaSと我々の事業は、近い関係にあると思っています。

 MaaSによって、ある場所からある場所への移動が革命的に効率化されると、自家用車が減るはずです。すると、駐車場の必要性が低くなって、価値が下がります。

 現状では、都心の立地が良い土地なら、TLUNCHに使っていただくよりも駐車場にしたほうが利益が出るのですが、駐車場の価値が下がって、また、我々が朝も夕方も営業するようになれば、フードトラックに貸したほうが利益が出るようになるでしょう。

 そうなると、ただクルマが停めてあっただけの場所に色々なフードトラックが出店するようになって、街に彩りが増えます。朝はパンを売っていた場所で、昼はローストビーフ丼を売っていて、夕方はカフェだったり、マッサージ店だったりする。社会にとっても、そのほうが良いのではないでしょうか。

 そうした状態を、MaaSが進化することによって、作りやすくなると思っています。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

森口拓也(もりぐち・たくや)

〔株〕Mellow代表取締役

1992年、埼玉県生まれ。2013年、ALTR THINK〔株〕を創業。様々な分析手法を駆使して100万人以上が使うコミュニケーションアプリを複数開発。14年に同社を〔株〕イグニスに売却したのち、〔株〕Mellowに参画。18年より現職。

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