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WASSHA「電力の『量り売り』から始め、アフリカの社会課題を解決する会社へ」

2018年12月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】秋田智司(WASSHA CEO)

【連載 経営トップに聞く】第10回 WASSHA〔株〕代表取締役CEO 秋田智司

秋田智司

 

 タンザニアの、発電所から電気が届かない地域で、ソーラーパネルを使った電力の「量り売り」事業を行なっているベンチャー企業・WASSHA〔株〕。電力の「量り売り」とは、いったいどういうものなのか。そして、なぜ、タンザニアでの電力事業で起業したのか。 共同創業者でCEOの秋田智司氏に聞いた。

 

アフリカで通常の電力ビジネスが成立しない理由とは?

 ――まず、御社のビジネスについて、詳しく教えてください。

秋田 今はタンザニアで事業を行なっていますが、フォーカスしているのはアフリカ全体です。

 サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)の人口は約10億人で、そのうち約6億人が未電化地域で暮らしています。インドなど、アジアでは電化が進んできていますが、アフリカでは進んでいません。

 その要因は、人口が少ない村が点在していることです。サブサハラアフリカの面積は、中国とインドと米国を合わせたよりも広いんです。そこに10億人しか暮らしていないので、一部の大都市を除くと、人口密度が低い。電柱をたくさん立てて、発電所から電線を引いても、その先の村には数戸しかないというような環境ですから、通常の事業モデルではコストがかかりすぎてペイしません。

 一方、これから最も人口が増えると予測されている地域でもあるので、電力需要は飛躍的に伸びるでしょう。

 電力需要が伸びるのに、未電化なままの地域が、当社のターゲットです。

 ――御社では、どういう形で電力を供給しているのでしょうか?

秋田 独立電源を使った電力の量り売りをしています。

 具体的には、ソーラーパネルで発電した電気をバッテリーに溜めて、WPD(WASSHA Power Device)と呼んでいる装置のUSBポートから、事前にお支払いいただいた金額ぶんだけ、電気を使っていただく、という形です。

 

秋田智司
ソーラーパネルとバッテリー、WPD(WASSHA Power Device)から成る設備。WPDには20個のUSBポートがついており、携帯電話やLEDランプの充電ができる

 

 設備を設置するのは、各村に必ずあるキオスクです。30分もあれば設置でき、イニシャルコストはすべて当社が負担します。

 そして、キオスクのオーナーにモバイルマネーで料金を支払っていただくと、6桁コードが発行されます。そのコードをアプリに入力すると、料金ぶんの電気が使えるようになります。

 エンドユーザーは、キオスクのオーナーに現金を支払って、WPDで携帯電話の充電をしたり、あらかじめ充電しておいたLEDランプを借りて灯りにしたりします。

 

秋田智司
キオスクとWASSHAの従業員(写真提供:WASSHA〔株〕)

 

 ――キオスクのオーナーが電力を御社から仕入れて、それをエンドユーザーに小売りする、ということですね。

秋田 そうです。

 ――「モバイルマネー」というのは、なんでしょうか?

秋田 アフリカでは、携帯電話を使った送金サービスが一般的に使われています。日本のLINE Payのようなものですが、相手の電話番号がわかれば送金できるもので、スマホだけでなく、フィーチャーフォンでも使えます。この送金サービスでやり取りされるのがモバイルマネーで、現金に交換することもできます。

 携帯電話のキャリアごとにサービスが提供されていて、VodafoneグループのSafaricom(本社・ケニア)が提供しているM-Pesaなどが有名ですね。

 日本で別の銀行の口座に送金するには手数料がかかるのと同じように、別の携帯キャリアに送金するには手数料がかかりますから、当社ではタンザニアで広く使われている携帯キャリア4社に対応して、どのキャリアからでも手数料がかからずにお支払いいただけるようにしています。

 ――エンドユーザーの需要は、携帯電話の充電と灯りなんですね。

秋田 モバイル送金サービスのためにも、携帯電話の充電は欠かせません。それに、アフリカは文字よりも口承の文化圏ですから、よく話すんです。

 灯りは、ケロシン(灯油)ランプを使うのが一般的なのですが、ケロシンは高いうえに、LEDランプほど明るくありません。LEDランプが使えるようになった村では、日が落ちてからもお店が営業できるようになり、村の活性化につながっています。

 

秋田智司
WASSHAのLEDランプで日没後も営業している店(写真提供:WASSHA〔株〕)

 

 ――WPDのための技術開発は難しかったのでしょうか?

秋田 もともとある技術を組み合わせたもので、新技術を開発したわけではありません。ただ、高温多湿だったり、静電気が発生しやすかったりといった現地の環境できちんと動作するよう、入念に調整しています。

 また、安くなければビジネスとして成立しませんから、必要最低限の機能だけを残して、要らないところをなくすことに注力しています。最初に作ったものは数十万円したのですが、最新のものは10分の1以下まで下がりました。次世代機はさらに安くなる見込みです。

 ――設備の設置箇所は、どのくらいになっていますか?

秋田 約1,000カ所です。2015~16年に約600カ所にまで一気に増やしたのですが、急拡大によってマネジメントに支障をきたしたので、その立て直しのためにペースを落としました。中には、不正が行なわれたりしたために、引き上げるケースもあります。

 各キオスクの売上げなどの情報はアプリを通じて確認していて、需要が多いところにはもう一つ設備を増やす、といったこともしています。

 ――設備を設置するキオスクのオーナーは、どのようにして見つけているのですか?

秋田 当社のスタッフが村々をまわっています。現地スタッフはタンザニア人が約100人いて、日本人は8人ですから、ほぼタンザニア人の会社ですね。

 ――電力という重要なインフラ事業は政府がやりそうなものですが、タンザニア政府は何かしていないのでしょうか?

秋田 タンザニアの電力会社は国営の1社だけなのですが、赤字が続いていて未電化地域に設備投資をする余裕がない状態です。送電ができているのは、事実上の首都のダルエスサラームと、ビクトリア湖畔のムワンザ、ザンビアとの国境に近いムベヤなどの主要都市に限られています。

 そこで、電力事業とは別に「電力サービス」というカテゴリーが作られて、そこに色々な国のスタートアップ企業が参入しているのが現状です。

 ただ、他社はソーラーホームシステムの割賦販売など、中~高所得層をターゲットにしたビジネスを手がけています。それで業績を伸ばしているのですが、当社がアクセスしている低所得者層には、手が出ないものですね。

 

著者紹介

秋田智司(あきた・さとし)

WASSHA〔株〕代表取締役CEO

1981年、茨城県生まれ。拓殖大学国際開発学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科修了。2006年にIBMビジネスコンサルティングサービス〔株〕(現・日本アイ・ビー・エム〔株〕)に入社し、ITを活用した新規事業開発や業務プロセス改善などのプロジェクトに従事。10年、NPO法人soketを共同設立。11年に日本アイ・ビー・エムを退職し、soketの専任コンサルタントとして日本企業の途上国進出支援に携わる。13年、東京大学特任教授の阿部力也氏と〔株〕Digital Grid(現・WASSHA〔株〕)を共同創業。

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