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【今週の「気になる本」】『アリス殺し』

2018年12月21日 公開

小林泰三著/東京創元社

なかなかお目にかかれない秀逸なダイイング・メッセージ

大学院生・栗栖川亜理は、不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ていた。ある日の夢の中で、ハンプティ・ダンプティの墜落死に遭遇。その後、大学に行ってみると、キャンパスの屋上から「玉子」というあだ名の研究員が墜落死していた。夢の世界と現実の世界の死がつながっていることに気づいた亜理は、同じ夢を見る同士を探し出し、真相究明に乗り出す。

『このミステリーがすごい!2014年版』国内編で4位にランクインした人気小説。SFとホラーやミステリが融合したような異色の作風を確立する著者らしさが存分に感じ取れる1冊である。

設定や世界観に惹かれて読み始める人も多いと思われる思う本作。不思議の国に迷い込んだかのような登場人物同士のやり取りや、夢か現実か混乱してくるような文章には翻弄されたが、実のところ謎解きの部分は非常にロジカルであった。

中でもあまりにも秀逸だと感じたのが、作中重要人物が殺されたときに残したダイイング・メッセージである。犯人の名前や真相をほのめかすことを書けば、その場を確認した犯人に消されてしまう。何をどう書けば消されずに、残された仲間にその真意が伝わるのか――知恵を振り絞って書かれたそれは、作中の謎解きに重要な役割を果たすだけでなく、読み手を大いにうならせるものであった。推理小説を読んでいると、ヒントの一つとしてダイイング・メッセージはよく出てくるが、これほど上手い使われ方をしていると感じたものは初めてである。

加えて、終盤の怒涛のどんでん返しと、「なぜ夢と現実がリンクするのか」に対する答えには、驚きつつも「そう来たか」と納得せざるを得ない。個人的にミステリが好きで、特に「どんでん返し」で有名な作品はだいたい読んでいるのだが、久しぶりに痛快なほどに騙された。独特の文体と、不思議の国の住人の堂々巡りのような会話のせいもあって、白昼夢を見たかのような読後感に包まれながらも、序盤から読み返してみると、実に周到に伏線が張られていることにまた驚かされる。

 


執筆:Nao(THE21編集部)



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