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なぜ、大手企業がベンチャーに社員を「他社留学」させているのか?

2019年01月24日 公開

米田瑛紀(エッセンス代表取締役)

まったく違う環境での「武者修行」が人を成長させる

 

 新しいデジタル技術が次々と登場し、「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれる新興企業が既存の大手企業を脅かしている時代。大手企業は、事業構造の変革や、新たな事業の創出を迫られている。個々のビジネスパーソンも、「人生100年時代」を生き抜くために、自らの能力をアップデートし続けなければならない。そんな中、大手企業が社員をベンチャー企業に「他社留学」させる事例が増えつつある。他社留学サービスを手がけるエッセンス〔株〕の代表取締役・米田瑛紀氏に話を聞いた。

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 エッセンスは、ヘッドハンティングなどのリクルーティング事業や、様々な分野のプロフェッショナルを非常勤の社外人材として顧客企業とマッチングさせる「プロパートナーズ事業」を行なってきた企業だ。これらの事業の中から、他社留学サービスのアイデアが生まれたという。

「リクルーティング事業を通して痛感したのは、新卒で入社してからずっと同じ企業に勤めて、他の企業のことを知らないまま転職することの弊害です。せっかく経験や能力を培ってきたのに、別の企業に転職した途端、それがゼロにリセットされてしまうケースが多いのです。転職に踏み切る前に、別の企業で実際に働いてみて、経験や能力が活かせるのかどうか確かめられるサービスができれば、と思いました。

 また、自分が今の会社の外で提供できる価値を把握することは、『人生100年時代』と言われる現在、すべてのビジネスパーソンに必要だと思います。今働いている企業では、いずれ定年を迎えて、別の場所で働くことになる人が増えていくはずですから。

 プロパートナーズ事業では、約1,300人のプロフェッショナルの方々に登録していただいています。彼らは、自分が顧客企業に対してどういう価値を提供できるのかを把握しています。その視点を、会社員であっても持っておくべきなのです。

 それに、企業にとっても、社員が別の企業を経験することには大きなメリットがあります。特にベンチャー企業での仕事は修羅場の連続ですから、大手企業では得られない成長の場になるのです。世の中では様々な社員研修が行なわれていますが、インプットをするだけのものが多い。何が起こるか予測できないリアルな場で、変化に対応しながら成果を出す経験をするほうが、はるかに実力がつきます」

 他社留学サービスについて様々な企業に説明して回ったところ、当初は、社員を他社に送り出すことに難色を示す大手企業が多かったそうだ。

「次世代リーダー育成のためや、新規事業開発の経験をさせるために、幹部候補社員に成長ベンチャーを経験させることの重要性は、多くの大手企業が理解してくれました。しかし、興味は持ってもらえても、『転職を促してしまうのではないか』『情報が漏洩するのではないか』といったリスクが重視されて、決裁にまで至らなかったのです。

 そんな中、東京電力ホールディングス〔株〕に『送り手企業』(社員を送り出す側の企業)になっていただき、初めての事例ができました。そのことが2017年2月20日付の日経新聞の記事になったところ、一気に50~60件のお問い合わせをいただきました」

 東京電力ホールディングスが送り出したのは、51歳の調達企画部長。一方、「受け手企業」(受け入れ側の企業)は、オフィスデザインを手がける〔株〕フロンティアコンサルティングだった。2007年創業で、社員数は約200人。仕入れコストの適性管理のため、調達の専門家を受け入れたいというニーズを持っていた。

「このときに他社留学をした方は、自分が持っている調達についての専門性が、規模や業種などがまったく違う企業でも活かせて、他社の経営陣から高い評価をもらえたことで、大いに自信をつけられました」

 このケースでは、送り手企業の社員が受け手企業の仕事をするのは、2カ月間で8日だった。幹部候補社員は多くの仕事を抱えているため、フルタイムで他社の仕事をすることが難しいことも多い。その場合は、週1回だけ、他社の仕事をする形での他社留学を行なっているのだ。

「当社の他社留学では、3日間集中の『チャレンジ』、週5日の『フルタイム』、週1日の『ナナサン』の三つのサービスを用意しています。『ナナサン』というのは、自分の会社の仕事を7割、他社の仕事を3割する、という意味です。

 サービス開始から約1年半で、他社留学を経験した人数は50人近くになりました。年齢は、幹部候補社員ということで、35歳前後の方が多いですね。送り手企業のリピート率は90%を超えていますし、受け手企業になっていただくことをご了承いただいている企業も約100社に増えています。

 送り手企業には、商社や金融機関、自動車会社、製薬会社などがあります。AIなどの新しい技術によって変革を迫られている業界の企業が多いですね。新しい産業で成長しているベンチャーを、社員に経験させたいと考えているのです。

 受け手企業には、大手企業の仕事の仕方を知りたいベンチャーが多いです。人事や決裁の仕組み一つにしても、ベンチャーから見ると、大手企業からは学べることばかりですから。

 中には、上場を目指して、全部署に1人ずつ上場企業の社員に来てほしい、というところもあります。送り手企業にとっても、社員に上場を経験させる、貴重な機会になります。

 また、受け手企業には、ベンチャーだけでなく、大手企業もあります。例えば、外資系のユニリーバ・ジャパン〔株〕は、日本企業から社員を受け入れて、風土の違いを知りたいとおっしゃっています」

 他社留学によって、送り手企業と受け手企業の相性が良いとわかれば、次の段階として、共同事業や業務提携も考えられる。しかし、当初、送り手企業が懸念していたように、転職を促すことにはなっていないのだろうか。

「今のところ、そのようなケースはありません。ポイントは、事前に行なっているカウンセリングです。『あなたは、将来、この会社の幹部社員になるために選ばれた。受け手企業で学んだことを、この会社で活かしてほしい』と、しっかり伝えるのです」

 エッセンスの他社留学サービスを見て、同様のサービスを始めた他社もあるという。そうした企業と比べたときのエッセンスの強みを、最後に尋ねた。

「一つは、カウンセリングや事後のフィードバックをきちんとしていることでしょう。

 それに加えて、プロパートナーズ事業を長くしているので、受け手企業が抱えている課題を明確にし、それを解決するのにふさわしい人をマッチングさせたり、逆に、他社留学をする人の専門性を活かせるプロジェクトを組んだりするノウハウが蓄積されていることが、最大の強みになっていると思います」



著者紹介

米田瑛紀(よねだ・えいき)

エッセンス〔株〕代表取締役

1973年生まれ。広島県出身。1996年に大学卒業後、地元・広島にて人材ビジネスの企業に入社。売上高5倍、企業規模拡大に貢献後、取締役ゼネラルマネージャーに着任。2000年、営業アウトソーシングの専門会社に創業メンバーとして参画。ゼロから営業責任者として組織を立ち上げ、9年間で20億円の売上げを上げる営業組織に育て上げる。2009年にエッセンス〔株〕を設立。

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発売日:2019年11月09日
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