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「イノベーションを起こすなら、自ら陳腐化させよ」ドラッカーに学ぶ、これからの経営に必要な考え方〈前編〉

2019年02月10日 公開

山下淳一郎(トップマネジメント代表取締役)

「デジタル破壊」と「デジタル革命」の時代を生き残る方法とは?

 

 時代は既に大きく変わった。もうあとへは戻らない。あらゆる事業が、今の姿のままではやがて陳腐化し、生き残っていくことができなくなる。現在起こっている、その激動の正体とは何か? それを明らかにする方法は7つある。

 ピーター・ドラッカーは、「今がチャンスのときである。なぜなら、すべてが流動的だからである」と言っている。どうチャンスを掴み、どうチャンスを活かすか。明日を生き抜くために、具体的なアクションをお伝えする。

 

最強の企業といえども苦境に陥る

 売上さえ上がっていれば大丈夫。収益が安定してさえいれば安泰だ――。

 そう考えがちだが、本当にそうだろうか。電機メーカー、自動車メーカー、証券会社、銀行、家電量販店、建設会社など、「え、あの会社が!?」と思う大企業が、海外企業に買われてしまったり、業績が傾いたりした例は少なくない。1997年、四大証券の一つだった山一證券〔株〕が倒産し、海外の例を挙げれば、2009年、米国最大の自動車メーカーであるゼネラルモーターズ社が経営破綻に追い込まれた。

 不動の地位を獲得したかのように見えた最強の企業が、なぜ、そうなってしまったのか。ドラッカーはこう言っている。

「今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行なっていなければ苦境に陥る。個性を失い、リーダーシップを失う。残るものといえば、大企業に特有の膨大な間接費だけである」

 これは理論上の話ではなく、既に多くの企業で起こっている現実だ。使命に向けて、お客様にどう尽くし、働く人の意欲をどう掻き立て、事業をどう運営し、会社をどう繁栄させていくか――。何かひとつ判断を誤れば、企業の将来は危うくなる。そこで働く数百、数千の人たちの生活に大きな影響を与える企業の責任は、あまりにも重い。

 

 

しかし、イノベーションを起こせないのが現実

 今、あらゆる企業が共通の課題に直面していると言える。それが、「新規事業を起ち上げる」という課題である。これまで前例踏襲に慣れてきた、官僚的な組織にとっては、大きな壁である。

 特に大企業ともなれば、安易な商品やサービスを出せばブランドに傷がついてしまうし、ある程度の事業規模でなければ投資を行なえない。また、それなりの投資を行なうからには、収益の見込みを把握しなければならない。たとえ現場でいいアイデアが出たとしても、どれだけ収益が見込めるかを上層部に説明するのに、相当の時間と労力を要する。それがクリアにならなければ、現場は動けない。「変化にあってはスピードが重要」と叫ばれる一方で、早く動いてはならない現実がある。

 加えて、長年、リスクをおかさなくても大きな収益を維持することができた大企業では、そもそも新規事業を推進できる人材が育っていない。

 このように、多くの事情が幾重にも重なって、大企業ではなかなかイノベーションを起こせないのが現実だ。

 

 

企業は「成長と変化のための機関」

 イノベーションとは技術革新のことではない。お客様の新しい満足を生み出すことだ。事業を新しい次元に進化させることは、あくまでも手段に過ぎない。どこまで行っても、追究するのはお客様の満足である。

 ここで、実際にイノベーションを起こした企業を取り上げて、その企業がどのようにイノベーションに取り組んだのかをお伝えしたい。

 セコム〔株〕は、1962年、日本警備保障〔株〕として設立された。創業時の従業員数はたった2名。その頃の日本には、まだ警備という事業が存在しなかった。警備という概念がなく、需要がなかったのだ。

 創業から3カ月間、営業に歩いても契約はゼロ。警備業を見たことも聞いたこともないお客様からは、「知らない人に警備なんて任せられない」「知らない人に警備してもらうのはかえって不安だ」と言われ、まったく相手にされなかった。

 ようやく事業が軌道に乗り始めたのは、創業から苦闘の連続であった4年が過ぎた、1966年のことだった。このタイミングで、創業者の飯田亮さんは、それまで従業員が身体を張ってやってきた巡回警備を廃止し、日本初の機械による警備システムに切り替える決断をされた。機械警備システムとは、建物にセンサーを設置し、センサーが異常を感知すると、その情報が電話回線を通じてセンターに送られ、警備員が駆けつけるというものである。

 これには従業員全員が大反対した。「順調に進んでいるのに、なぜ今の事業を変えるのか!」「命をかけて警備をやってきたのに、なぜ機械に任せるのか!」「自分たちが信用できないのか!」。従業員には様々な想いがあった。

 飯田さんは、事業を新しい次元に進化させようと挑んだのだ。事業とは、社会の問題を解決していくひとつの生態系と言える。その生態系を進化させる取り組みが、イノベーションである。それは、生まれていないニーズを生み出し、まだ満たされていないニーズを満たすということに尽きる。

 飯田さんは、「イノベーションを失った組織は、あっという間に衰退する」と言う。現在、セコムが、グループ売上高約9,700億円、従業員約6万人、海外17カ国で事業展開する大きな企業となっていることは、周知の通りだ。いつの時代も、新しい扉を開くのは、未来を描くリーダーの強い信念と勇気である。

 ドラッカーこう言っている。

「企業が存在しうるのは、成長する経済のみである。あるいは、少なくとも、変化を当然とする経済においてのみである。そして企業こそ、この成長と変化のための機関である」

 

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著者紹介

山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)

トップマネジメント〔株〕代表取締役

ドラッカー専門のマネジメントコンサルタント。東京都渋谷区出身。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカー理論を実践する支援を行なう。中小企業役員と上場企業役員を経て、ドラッカーの理論に基づく経営チームのコンサルティングを行なうトップマネジメント〔株〕を設立。現在は、上場企業に「後継者育成のためのドラッカーの役員研修」「経営チーム向けのドラッカーのトップマネジメントチームプログラム」「管理職向けのドラッカーのマネジメント研修」を行なっている。著書に『日本に来たドラッカー 初来日編』『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(ともに同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)などがある。

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